フレデリク7世 (デンマーク王)
フレデリク7世（1808年10月6日 - 1863年10月15日）は、デンマーク王国の絶対君主制時代最後の君主であり、1848年から1863年まで在位しました。彼は、統治権を政府に委譲する憲法に署名し、デンマークを立憲君主制国家へと導いたことで知られています。この変革は、平和的な「3月革命」として実現し、国内の成人男性に投票権を与えることになりました。フレデリク7世の治世は、シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン問題とデンマーク王位継承問題に大きく左右されました。
フレデリク7世は、デンマークの歴代の王の中で最も国民から愛される君主になることを目指しました。絶対君主制を放棄しただけでなく、その人柄もまた、多くの人々に親しまれる要因となりました。彼には、虚言癖、飲酒、気まぐれといった多くの欠点があったにもかかわらず、実行力と素朴さ、温かさ、そして簡素でありながらも威厳ある君主としての姿を併せ持っていました。彼のモットーは「民の愛は、我が強さなり」でした。
フレデリク7世は、オルデンブルク朝最後の王として、クリスチャン8世とシャルロッテ・フリーデリケの間に生まれましたが、両親の離婚後はあまり注目されない幼少期を過ごしました。青年期には私生活のスキャンダルが相次ぎ、「王室の問題児」と見なされました。1848年1月に王位を継承すると、すぐに憲法制定の要求とシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公国の独立問題に直面しました。フレデリク7世は、国民の要求に応え、3月には絶対君主制の終焉を受け入れ、1849年に第1「6月憲法」が制定されました。しかし、シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン問題を巡っては、プロイセン王国などとの間で第一次シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン戦争が勃発しました。1848年から1850年まで続いたこの戦争中、フレデリク7世は「国家の指導者」として国民を鼓舞し、戦闘には直接関与しなかったものの「戦争の英雄」として国民から認識されました。
フレデリク7世は、過去に2度の結婚を経験しましたが、いずれもスキャンダルと離婚に終わりました。1850年には、ルイーセ・ラスムセン（ダナー伯爵夫人）と貴賤結婚をしました。彼女は庶民出身の帽子屋で元バレリーナでしたが、フレデリク7世とは長年の愛人関係にありました。この結婚は幸せなものであったと伝えられていますが、貴族やブルジョワジーの間からは大きな反発を招きました。伯爵夫人は、敵対者からは守銭奴と非難されましたが、支持者からは豪胆で気取らない「人民の娘」として崇拝されました。彼女は、王の精神的安定に貢献し、また、フレデリク7世が地方を訪れて民衆と交流するよう促し、彼の人気の維持に努めました。
フレデリク7世は、治世中、概ね立憲君主として振舞いましたが、政治に完全に干渉しなかったわけではありませんでした。1854年には反動主義者のアンデシュ・サンデー・エルステド内閣の凋落に関与し、1859年から1860年には妻が主導する自由主義政府を受け入れました。また、死の直前の1862年から1863年のシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン問題の再燃に関し、汎スカンディナヴィア軍による共同作戦を公然と主張していました。これらの小さな危機は摩擦を生み出しましたが、フレデリク7世の人気が揺らぐことはありませんでした。
フレデリク7世の治世は、1854年から政権を担った国民自由党の黄金時代でもありました。この時代には、コペンハーゲン市の城壁の撤去開始や、1857年の自由貿易導入など、多くの政治的、経済的改革が行われました。
シュレースヴィヒ＝ホルシュタインにおける反対勢力との対立や、南ユトランドのデンマーク編入への反対要求は、国際情勢に対応するための憲法改正につながりました。国民自由党は、1864年に戦争へと繋がったドイツ（プロイセン）に対する抵抗路線を堅持しました。フレデリク7世は、この路線を全面的に支持し、急死の直前にデンマークとシュレースヴィヒの新憲法に署名しました。
フレデリク7世は3度結婚しましたが、後継ぎとなる子供を授かることはありませんでした。デンマークの王位継承法はサリカ法を完全には適用していませんでしたが、デンマーク王が君主を兼ねるホルシュタイン公国はサリカ法が適用されていました。オルデンブルク家の家長がデンマークの王位とドイツ連邦内のシュレースヴィヒ、ホルシュタイン公国の君主を兼ねる特殊な状況のため、フレデリク7世の後継者問題は非常に困難な問題となり、戦争に繋がりました。シュレースヴィヒ＝ホルシュタインのドイツ系住民は民族主義に基づいて独立を主張し、公国地域がデンマーク民族と共存する意思がないことを主張しました。
サリカ法に従えば、シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公位は、フレデリク7世よりも年長のアウグステンブルク公クリスチャン・アウグスト2世が継承するはずでした。しかし、クリスチャン・アウグスト2世は、第一次シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン戦争でドイツ民族政府の代表となり失脚し、金銭的補償と引き換えに継承権を放棄しました。この放棄はシュレースヴィヒとホルシュタインの両公国で布告され、1852年のロンドン議定書で確認されました。
フレデリク7世の最も近縁の女子は、父方の叔母ルイーセ・シャロデでした。彼女はヘッセン＝カッセル家のヴィルヘルム方伯と結婚していましたが、その子孫はデンマーク王家の男系子孫ではないため、シュレースヴィヒ＝ホルシュタインの継承権を持っていませんでした。フレデリク3世以来の独自の長子相続制度によれば、男系が絶えた場合の王家の女子後継者は、フレデリク6世の娘たち、次いでルイーセ・シャロデの後継者、そしてフレデリク6世の妹ルイーセ・アウグスタの子孫でした。ルイーセ・アウグスタの息子は、アウグステンブルク公クリスチャン・アウグスト2世であり、その長男フリードリヒは父の継承権放棄によりシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公位から排除されていました。
オルデンブルク家の傍系であるグリュックスブルク家は、ヘッセン＝カッセル家との姻戚関係によりデンマーク王位継承順位が高く、アウグステンブルク家よりも下位でしたが、シュレースヴィヒ＝ホルシュタインの継承権を有していました。彼らの女系の先祖の一人は、フレデリク5世の娘ルイーセでした。クリスチャン公子はフレデリク6世とマリー王妃の「養孫」であり、宮廷と王室の伝統に通じていました。クリスチャン公子はマリー王妃の甥にあたり、フレデリク6世の従妹の子でした。彼はデンマーク人として育ち、デンマーク語圏の王室領に居住し、ドイツ民族主義とは無縁でした。これらは法的には意味を持ちませんでしたが、デンマーク人にとっては良い王位継承候補者となりました。クリスチャンはシュレースヴィヒ＝ホルシュタインの継承権を有していましたが、アウグステンブルク家や2人の兄の存在から最上位ではありませんでした。また、フレデリク3世の子孫としてデンマーク王位の継承権者でもありましたが、ヘッセン＝カッセル家が上位だったため、その継承の可能性は低いとされていました。
クリスチャンは1842年にヘッセン＝カッセル家のルイーゼと結婚しました。ルイーゼの母ルイーセ・シャロデはクリスチャン8世の妹であり、当時フレデリク7世と最も近い血縁関係を持つ女性でした。ヘッセン＝カッセル家は、デンマーク王位継承権に関するルイーセ・シャロデとその夫ヴィルヘルムへの支援を放棄しました。1852年の法令により、クリスチャンがフレデリク7世の後継者に選ばれることで、デンマーク王位継承問題は解決されました。
フレデリク7世は、当時盛んだった汎スカンディナヴィア主義に共鳴し、ロンドン議定書によって押し付けられたグリュックスブルク家の王位継承よりも、スウェーデン王室との結びつきを模索していました。スウェーデン王オスカル1世やその子カール15世は、この主義の熱烈な支持者でした。フレデリク7世とカール15世は、デンマークとスウェーデンを連合王国とする議論も行っていました。場合によっては、カール15世をフレデリク7世の養子にする案もありました。特にデンマークでは、ドイツからの脅威に対抗するために、スウェーデンとの連合が真剣に議論されました。
しかし、ヨーロッパ列強はこの主義に警戒し、北欧への圧力をかけました。汎スカンディナヴィア主義は北欧全体で盛り上がりを見せましたが、北欧諸国の政府は冷淡でした。特にスウェーデン政府は、この主義を利用した王権復活に警戒し、ベルナドッテ家によるデンマークの王位継承に反対しました。さらに、シュレースヴィヒ＝ホルシュタインの民族問題すら一蹴しました。それでも、フレデリク7世は最後までスウェーデンの支援に期待を抱いていました。
フレデリク7世は1863年に亡くなり、ロスキレ大聖堂に埋葬されました。最終的に、ロンドン議定書に従い、クリスチャンが王位を継承し、クリスチャン9世となりました。
1863年11月、アウグステンブルク公フリードリヒは、「継承令」（11月憲法）を両公領に発布し、自らを君主としてシュレースヴィヒ＝ホルシュタインが独立することを宣言し、公国のドイツ系住民から圧倒的な支持を得ました。11月憲法に反対したプロイセン王国とオーストリア帝国は、第二次シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン戦争を開始し、1866年にはシュレースヴィヒ＝ホルシュタインがプロイセン王国に併合されました。アウグステンブルク公爵家は後にシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公を名乗りましたが、1931年に断絶しました。
フレデリク7世は、デンマークの歴代の王の中で最も国民から愛される君主になることを目指しました。絶対君主制を放棄しただけでなく、その人柄もまた、多くの人々に親しまれる要因となりました。彼には、虚言癖、飲酒、気まぐれといった多くの欠点があったにもかかわらず、実行力と素朴さ、温かさ、そして簡素でありながらも威厳ある君主としての姿を併せ持っていました。彼のモットーは「民の愛は、我が強さなり」でした。
生涯と治世
フレデリク7世は、オルデンブルク朝最後の王として、クリスチャン8世とシャルロッテ・フリーデリケの間に生まれましたが、両親の離婚後はあまり注目されない幼少期を過ごしました。青年期には私生活のスキャンダルが相次ぎ、「王室の問題児」と見なされました。1848年1月に王位を継承すると、すぐに憲法制定の要求とシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公国の独立問題に直面しました。フレデリク7世は、国民の要求に応え、3月には絶対君主制の終焉を受け入れ、1849年に第1「6月憲法」が制定されました。しかし、シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン問題を巡っては、プロイセン王国などとの間で第一次シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン戦争が勃発しました。1848年から1850年まで続いたこの戦争中、フレデリク7世は「国家の指導者」として国民を鼓舞し、戦闘には直接関与しなかったものの「戦争の英雄」として国民から認識されました。
フレデリク7世は、過去に2度の結婚を経験しましたが、いずれもスキャンダルと離婚に終わりました。1850年には、ルイーセ・ラスムセン（ダナー伯爵夫人）と貴賤結婚をしました。彼女は庶民出身の帽子屋で元バレリーナでしたが、フレデリク7世とは長年の愛人関係にありました。この結婚は幸せなものであったと伝えられていますが、貴族やブルジョワジーの間からは大きな反発を招きました。伯爵夫人は、敵対者からは守銭奴と非難されましたが、支持者からは豪胆で気取らない「人民の娘」として崇拝されました。彼女は、王の精神的安定に貢献し、また、フレデリク7世が地方を訪れて民衆と交流するよう促し、彼の人気の維持に努めました。
フレデリク7世は、治世中、概ね立憲君主として振舞いましたが、政治に完全に干渉しなかったわけではありませんでした。1854年には反動主義者のアンデシュ・サンデー・エルステド内閣の凋落に関与し、1859年から1860年には妻が主導する自由主義政府を受け入れました。また、死の直前の1862年から1863年のシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン問題の再燃に関し、汎スカンディナヴィア軍による共同作戦を公然と主張していました。これらの小さな危機は摩擦を生み出しましたが、フレデリク7世の人気が揺らぐことはありませんでした。
フレデリク7世の治世は、1854年から政権を担った国民自由党の黄金時代でもありました。この時代には、コペンハーゲン市の城壁の撤去開始や、1857年の自由貿易導入など、多くの政治的、経済的改革が行われました。
シュレースヴィヒ＝ホルシュタインにおける反対勢力との対立や、南ユトランドのデンマーク編入への反対要求は、国際情勢に対応するための憲法改正につながりました。国民自由党は、1864年に戦争へと繋がったドイツ（プロイセン）に対する抵抗路線を堅持しました。フレデリク7世は、この路線を全面的に支持し、急死の直前にデンマークとシュレースヴィヒの新憲法に署名しました。
王位継承問題
フレデリク7世は3度結婚しましたが、後継ぎとなる子供を授かることはありませんでした。デンマークの王位継承法はサリカ法を完全には適用していませんでしたが、デンマーク王が君主を兼ねるホルシュタイン公国はサリカ法が適用されていました。オルデンブルク家の家長がデンマークの王位とドイツ連邦内のシュレースヴィヒ、ホルシュタイン公国の君主を兼ねる特殊な状況のため、フレデリク7世の後継者問題は非常に困難な問題となり、戦争に繋がりました。シュレースヴィヒ＝ホルシュタインのドイツ系住民は民族主義に基づいて独立を主張し、公国地域がデンマーク民族と共存する意思がないことを主張しました。
アウグステンブルク家
サリカ法に従えば、シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公位は、フレデリク7世よりも年長のアウグステンブルク公クリスチャン・アウグスト2世が継承するはずでした。しかし、クリスチャン・アウグスト2世は、第一次シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン戦争でドイツ民族政府の代表となり失脚し、金銭的補償と引き換えに継承権を放棄しました。この放棄はシュレースヴィヒとホルシュタインの両公国で布告され、1852年のロンドン議定書で確認されました。
フレデリク7世の最も近縁の女子は、父方の叔母ルイーセ・シャロデでした。彼女はヘッセン＝カッセル家のヴィルヘルム方伯と結婚していましたが、その子孫はデンマーク王家の男系子孫ではないため、シュレースヴィヒ＝ホルシュタインの継承権を持っていませんでした。フレデリク3世以来の独自の長子相続制度によれば、男系が絶えた場合の王家の女子後継者は、フレデリク6世の娘たち、次いでルイーセ・シャロデの後継者、そしてフレデリク6世の妹ルイーセ・アウグスタの子孫でした。ルイーセ・アウグスタの息子は、アウグステンブルク公クリスチャン・アウグスト2世であり、その長男フリードリヒは父の継承権放棄によりシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公位から排除されていました。
グリュックスブルク家
オルデンブルク家の傍系であるグリュックスブルク家は、ヘッセン＝カッセル家との姻戚関係によりデンマーク王位継承順位が高く、アウグステンブルク家よりも下位でしたが、シュレースヴィヒ＝ホルシュタインの継承権を有していました。彼らの女系の先祖の一人は、フレデリク5世の娘ルイーセでした。クリスチャン公子はフレデリク6世とマリー王妃の「養孫」であり、宮廷と王室の伝統に通じていました。クリスチャン公子はマリー王妃の甥にあたり、フレデリク6世の従妹の子でした。彼はデンマーク人として育ち、デンマーク語圏の王室領に居住し、ドイツ民族主義とは無縁でした。これらは法的には意味を持ちませんでしたが、デンマーク人にとっては良い王位継承候補者となりました。クリスチャンはシュレースヴィヒ＝ホルシュタインの継承権を有していましたが、アウグステンブルク家や2人の兄の存在から最上位ではありませんでした。また、フレデリク3世の子孫としてデンマーク王位の継承権者でもありましたが、ヘッセン＝カッセル家が上位だったため、その継承の可能性は低いとされていました。
クリスチャンは1842年にヘッセン＝カッセル家のルイーゼと結婚しました。ルイーゼの母ルイーセ・シャロデはクリスチャン8世の妹であり、当時フレデリク7世と最も近い血縁関係を持つ女性でした。ヘッセン＝カッセル家は、デンマーク王位継承権に関するルイーセ・シャロデとその夫ヴィルヘルムへの支援を放棄しました。1852年の法令により、クリスチャンがフレデリク7世の後継者に選ばれることで、デンマーク王位継承問題は解決されました。
スウェーデンとの連合の模索
フレデリク7世は、当時盛んだった汎スカンディナヴィア主義に共鳴し、ロンドン議定書によって押し付けられたグリュックスブルク家の王位継承よりも、スウェーデン王室との結びつきを模索していました。スウェーデン王オスカル1世やその子カール15世は、この主義の熱烈な支持者でした。フレデリク7世とカール15世は、デンマークとスウェーデンを連合王国とする議論も行っていました。場合によっては、カール15世をフレデリク7世の養子にする案もありました。特にデンマークでは、ドイツからの脅威に対抗するために、スウェーデンとの連合が真剣に議論されました。
しかし、ヨーロッパ列強はこの主義に警戒し、北欧への圧力をかけました。汎スカンディナヴィア主義は北欧全体で盛り上がりを見せましたが、北欧諸国の政府は冷淡でした。特にスウェーデン政府は、この主義を利用した王権復活に警戒し、ベルナドッテ家によるデンマークの王位継承に反対しました。さらに、シュレースヴィヒ＝ホルシュタインの民族問題すら一蹴しました。それでも、フレデリク7世は最後までスウェーデンの支援に期待を抱いていました。
結果
フレデリク7世は1863年に亡くなり、ロスキレ大聖堂に埋葬されました。最終的に、ロンドン議定書に従い、クリスチャンが王位を継承し、クリスチャン9世となりました。
1863年11月、アウグステンブルク公フリードリヒは、「継承令」（11月憲法）を両公領に発布し、自らを君主としてシュレースヴィヒ＝ホルシュタインが独立することを宣言し、公国のドイツ系住民から圧倒的な支持を得ました。11月憲法に反対したプロイセン王国とオーストリア帝国は、第二次シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン戦争を開始し、1866年にはシュレースヴィヒ＝ホルシュタインがプロイセン王国に併合されました。アウグステンブルク公爵家は後にシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン公を名乗りましたが、1931年に断絶しました。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。