フレデリック・ソディ

フレデリック・ソディ(1877-1956)は、20世紀を代表するイギリスの化学者の一人です。彼の業績は、科学史に大きな足跡を残すだけでなく、経済学への貢献、そして幾何学への関心の広さなど、多岐にわたります。

ソディはイングランド南部のイーストボーンに生まれました。当初は技師を目指し、イーストボーン・カレッジに入学しますが、その後、ユニヴァーシティ・カレッジ、そしてオックスフォード大学マートンカレッジへと進学。オックスフォードでは有機化学を専攻し、学士号を取得します。しかし、当時のオックスフォード大学では自然科学はさほど重視されておらず、ソディはカナダへの渡航を試みますが失敗、その後マギル大学で化学助手として職を得ることになります。

マギル大学でのソディの研究人生は、アーネスト・ラザフォードとの出会いをきっかけに大きく転換します。二人は共同で放射性元素の研究を行い、放射性崩壊が他の元素への変化を伴うことを突き止めました。これは、原子核物理学の黎明期において画期的な発見であり、「原子壊変説」として発表されます。この研究は、ラザフォードとソディそれぞれの偶然と幸運が重なった結果と言えるでしょう。ラザフォードはケンブリッジ大学からマギル大学の教授として就任した際、学内の会合でソディと出会い、共同研究が始まったのです。

その後、ソディはユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンでラムゼーと共同研究を行い、ラジウムエマネーションの崩壊によってヘリウムが生成することを確認します。さらに、グラスゴー大学在籍中には、ウランからラジウムへの崩壊過程で、ウランX2（プロトアクチニウム234）やイオニウム（トリウム230）の存在を明らかにしました。この研究は、放射性元素の崩壊系列を理解する上で重要な貢献です。

ソディの最も重要な業績の一つは、同位体の概念を確立したことでしょう。彼は、化学的性質が同じでも原子量が異なる元素が存在することを示し、その概念を「アイソトープ」（ギリシャ語で「同じ場所」を意味する）と名付けました。この命名は、マーガレット・トッドからの提案によるものです。また、アルファ崩壊とベータ崩壊における原子番号の変化についても明らかにし、放射性元素の系統的な理解に繋げました。

ソディの研究は、ハーバート・ジョージ・ウェルズの小説『解放された世界』にも影響を与えています。この小説では、原子爆弾が登場しますが、ソディの研究成果が小説の着想源になったと考えられています。またソディ自身も、恒星のエネルギー源が放射性物質のプロセスである可能性を示唆しています。

1914年からアバディーン大学、1919年からオックスフォード大学の教授として活躍したソディは、1921年、放射性崩壊の研究と同位体元素理論の確立への貢献によりノーベル化学賞を受賞します。しかし彼の関心は科学にとどまりませんでした。ソディは、熱力学の原理に基づいた独自の経済理論を展開し、複数の著作を発表しました。その中で、金本位制の廃止や国際為替市場の変動相場制への移行などを提唱しましたが、当時受け入れられませんでした。これらのアイデアは現代では一般的なものとなっていますが、当時はあまりに革新的すぎたと言えるでしょう。彼の経済学への関心の背景には、貧困問題への深い関心があったとされています。

ソディの多様な関心の広さは、晩年の六球連鎖の定理の再発見にも見ることができます。この問題に登場する円弧は「ソディの円弧」として知られています。

ソディは、科学者としての業績に加え、経済学者、そして幾何学者としても知られ、その多才な才能で時代を切り開いた人物として、科学史に燦然と輝く存在です。彼の名前は、月のクレーターや、含ウランケイ酸塩鉱物「ソディ石」にも刻まれています。1956年、ブライトンで生涯を終えたソディの功績は、今後も科学界において高く評価されるでしょう。

もう一度検索