フロワッサール (エルガー)

エドワード・エルガーが作曲した演奏会用序曲『フロワッサール』作品19は、彼の初期の重要なオーケストラ作品として知られています。この曲は、ウォルター・スコットの小説『Old Mortality』を読んだことをきっかけに、中世の歴史家ジャン・フロワサールに深い関心を寄せたエルガーが、その伝記からインスピレーションを得て生まれました。フロワサールは14世紀の英仏間の歴史、特に百年戦争に関する年代記を記した人物であり、エルガーはこの時代の騎士道精神や雰囲気から音楽的な着想を得たと考えられます。

作曲の背景と初演

本作は1890年にウスター音楽祭から委嘱され、同年のスリー・クワイアズ・フェスティバルにおける世俗曲コンサートのために作曲されました。この時期、エルガーはアリスとの結婚を機にロンドンへと移り、作曲家として大成しようと意欲を燃やしていました。そのような中で、キャリアを飛躍させるための大きな仕事として、地元であるウスターからの委嘱という形で機会を得たことは、ある種の巡り合わせと言えるでしょう。作曲は1890年の春に進められ、同年7月に完成しました。これはエルガーにとって、フル編成のオーケストラのために書かれた最初の大規模な作品となりました。記念すべき初演は、作曲者自身の指揮によって、1890年9月9日にウスターの地で執り行われました。

楽曲の構成

『フロワッサール』序曲は単一の楽章で構成されており、テンポはアレグロ・モデラート、拍子は4分の4拍子、調性は変ロ長調です。演奏時間は15分弱と比較的小規模な作品ですが、内容は密接に展開されます。エルガーは楽譜の草稿に、ジョン・キーツが1817年に発表した詩の一節「When Chivalry lifted up her lance on high」（女騎士が高らかに槍を掲げたとき）をモットーとして記しており、これが作品全体を流れる騎士道的な雰囲気を示唆しています。

楽曲は、活気に満ちた騎士のファンファーレを思わせる主題によって幕を開けます。この冒頭の主題は作品の性格を決定づける重要な要素ですが、その後の主題提示部がやや長く、構成的に散漫であるという指摘も聞かれます。

作品への評価

『フロワッサール』は初期作品ゆえの未熟な点も指摘されていますが、同時に後の円熟期を予感させるようなエルガーらしい筆致も見られます。音楽学者ウィリアム・ヘンリー・リードは、特に技巧的なパッセージの中に、既にエルガー独特のオーケストレーションの片鱗を見出しています。また、楽譜に非常に詳細な指示（発想表記）を書き込むエルガーのスタイルが、すでにこの頃から顕著であり、演奏者の解釈の自由度が限られる傾向にある、とも指摘しています。

総じて、本作には初期作品特有の構成的な弱さや、他の作曲家からの影響が十分に消化されていない部分が見られるという点で、多くの批評家や研究者の意見は一致しています。音楽評論家のマイケル・ケネディは、展開部が弱いことや、未消化な他者の影響を指摘しています。エルガー自身も、この作品がやや長すぎると感じていたようですが、より個性的で完成度の高い作品を生み出すようになった後も、『フロワッサール』については「良い、健康的なものだ」と評価していました。

この作品は、後年に書かれた『フォルスタッフ』や『コケイン』のような、特定の物語や情景を具体的に描写するタイプの標題音楽ではありません。むしろ、中世の騎士道の時代が持っていた雰囲気や、当時の風俗を、多様な音楽的表現を通して聴き手に想起させることに主眼が置かれています。初期の作品でありながらも、エルガーが後に確立する独自のスタイルへの萌芽が見られる、『フロワッサール』は、彼の創作活動において重要な位置を占める作品と言えるでしょう。

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