ブガッティ・タイプ57

ブガッティ タイプ57：伝説の高級車とその多彩なバリエーション

ブガッティ社は、1934年から1940年にかけて、高級車「タイプ57（Type57、T57）」を710台生産しました。これはブガッティの歴史において最多生産台数を記録したモデルであり、その人気と成功を示しています。

タイプ57の概要

エットーレ・ブガッティの長男であるジャン・ブガッティが設計したタイプ57は、洗練されたデザインと高性能エンジンを特徴としています。ボディデザインは自社工場で手がけられ、「ヴァントー」（Ventoux）、「ギャリビエ」（Galibier）、「ステルヴィオ」（Stelvio）、「アトランテ」（Atalante）など、多様なバリエーションが用意されました。

搭載されたエンジンは、タイプ49のものをジャン・ブガッティが大幅に改良したDOHC直列8気筒3,257ccエンジンで、135馬力を発揮しました。3,300mmという長いホイールベースと相まって、最高速度153km/hを達成。しかし、エットーレ・ブガッティの意向により、シャシーは時代遅れの固定軸式サスペンションと機械式ブレーキ（1938年に油圧式に変更）という、やや保守的な設計となっています。ジャン・ブガッティは独立式サスペンションを計画していましたが、エットーレの反対により断念したと言われています。

630台が生産されたスタンダードなタイプ57は、ボンネット側面にサーモスタット制御式の開閉式シャッターを備えていることが特徴です。

タイプ57をベースとした高性能モデル

タイプ57は、その高い性能をベースに、様々なスポーツモデルやレーシングモデルが開発されました。これらは、標準モデル以上に有名で、ブガッティの歴史において重要な位置を占めています。

タイプ57S

タイプ57Sは、シャシーを低くし、ホイールベースを2,979mmに短縮したモデルです。「surbaissé」（フランス語で「低められた」の意）を意味する「S」が型式名に冠されています。ラジエターグリル下端はV字型となり、ボンネット両側の開閉式シャッターはメッシュの金網に変更されています。シャシーの大幅な変更により、後輪車軸はシャシーを貫通するようになり、エンジンの潤滑方式もドライサンプ方式に変更されています。さらに、前輪サスペンションも新設計され、独立式に近いものとなりました。わずか40台しか生産されませんでしたが、その美しいボディは多くのコーチビルダーに採用され、高級車愛好家から高い人気を集めました。

タイプ57SC

タイプ57SCは、タイプ57Sにスーパーチャージャーを搭載した高性能版です。「compresseur」（フランス語で「コンプレッサー」の意）を意味する「SC」が型式名に加えられています。新車として生産されたのはわずか2台でしたが、多くのタイプ57Sオーナーがスーパーチャージャーの追加を希望したため、多くのタイプ57Sはブガッティ工場でスーパーチャージャーが搭載されました。エンジン出力は160馬力に向上し、最高速度は185km/hに達しました。

タイプ57T

タイプ57Tは、タイプ57をチューンしたモデルで、最高速度185km/hを達成しました。

タイプ57C

タイプ57Cは1937年から1940年にかけて製造されたレーシングカーで、約96台が生産されました。ロードゴーイングモデルのタイプ57と共通の3.3Lエンジンを搭載し、ルーツ式スーパーチャージャーによって160馬力を発生しました。

タイプ57の代表作：アトランティーク・クーペ

タイプ57に架装された様々なボディの中でも、最も有名で人気が高いのがアトランティーク・クーペです。特にタイプ57SCのアトランティーク・クーペは、第二次世界大戦前の最も美しい車の1つとして賞賛されています。4台が製造され、現在3台が現存しています。

タイプ57「タンク」：レーシングカーの頂点

タイプ57「タンク」は、タイプ57SCのシャシーをベースに流線型のボディと4,743cc/289馬力の高性能エンジンを搭載したレーシングカーです。1936年と1937年のモデルはタイプ57G、1939年のモデルはタイプ57Sと呼ばれていました。1936年のフランスGP、1937年のル・マン24時間レース、1939年のル・マン24時間レースで優勝するなど、輝かしい戦績を残しました。しかし、ジャン・ブガッティは1939年8月、タイプ57Sのテスト走行中に事故死。翌月には第二次世界大戦が勃発し、ブガッティのような超高級車の生産は困難になりました。

ジャン・ブガッティは、タイプ57の後継車として前輪独立サスペンションを採用したタイプ64を試作していましたが、彼の死と戦争によって計画は頓挫しました。戦後、ブガッティが生産を再開したタイプ101は、時代遅れのタイプ57のシャシーを用いており、ジャン・ブガッティの死による影響が見て取れます。タイプ101はすぐに生産終了となり、ブガッティのロードカー生産は1980年代まで途絶えることとなりました。タイプ57は、ブガッティの歴史において、重要な転換期における象徴的なモデルと言えるでしょう。

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