ブジル

ブジル（Buǰir）

ブジルという名の人物は、13世紀のモンゴル帝国において2人確認されています。一人はウルウト軍団長ジュルチェデイの次男であり、もう一人はタタル部トトクリウト氏出身でイェケ・ジャルグチ（断事官）を務めた人物です。以下にそれぞれのブジルについて解説します。

1. ウルウト氏ジュルチェデイ家のブジル（千人隊長）

ウルウト氏は、モンゴル部族の中でも有力な氏族の一つで、その始祖はボドンチャルの子孫であるナチン・バートルに遡ると伝えられています。ナチン・バートルの2人の息子、ウルウダイとマングダイからウルウト氏とマングト氏がそれぞれ分かれました。チンギス・カンに仕えたウルウト族長のジュルチェデイは、その功績により4千人隊を率いる千人隊長（ミンガン）に任じられました。

『集史』の「チンギス・カン紀」には、ジュルチェデイの死後、ウルウト4千人隊がケフテイ・ノヤンとブジル・ノヤンの兄弟に引き継がれたと記されています。彼らはチンギス・カンに忠誠を尽くし、その功績から部族の全てを委ねられたとされています。また、『モンゴル秘史』の功臣表には「不只児（Buǰir ＞ bùzhīér）」という名前が挙げられており、この「不只児」はウルウト氏のブジル・ノヤンを指すという説があります。

ウルウト氏ジュルチェデイ家は、以下の系図で示されます。

千人隊長ジュルチェデイ（J̌ürčedei ＞ 朮赤台/zhúchìtái）
郡王ケフテイ（Kehetei ＞ 怯台/qiètái）
郡王テムジン（Temüǰin ＞ 端真/duānzhēn）
郡王カダク（Qadaq ＞ 哈答/hādā）
郡王トゴン（Toγon ＞ 脱歓/tuōhuān）
郡王タシュ・テムル（Taš temür ＞ 塔失帖木児/tǎshītièmùér）
郡王カラ・ブカ（Qara buqa ＞ 匣剌不花/xiálàbùhuā）
イリンジバル（Irinǰibar ＞ 亦隣只班/yìlínzhǐbān）
郡王ヒントム（Hingtom ＞ 慶童/qìngtóng）
郡王イェリ・ブカ（Yeli buqa ＞ 也里不花/yĕlǐbùhuā）
ブジル・ノヤン（Buǰir ＞ 不只児/bùzhīér）

2. タタル部出身のブジル（断事官）

チンギス・カンが勃興し始めた頃、タタル部のトトクリウト氏にはネルゲイという人物がおり、弓矢の作成を得意としていました。ある時、ネルゲイとノヤンがチンギス・カンと出会い、ネルゲイが作った弓矢を献上したことがきっかけで、ネルゲイとその息子ブジルはチンギス・カンに仕えるようになりました。ノヤンはネルゲイの息子ブジルを気に入り、自らの娘を与えたとも伝えられています。

ネルゲイ、ブジル父子はチンギス・カンの征服戦争に従事し、多くの戦功を挙げました。ネルゲイは後に「バートル（勇士）」の称号を与えられました。中央アジア遠征において、ブジルは激戦の中で多くの矢を受けましたが、チンギス・カンの指示により、牛の腹を割いてその中にブジルを横たわらせたところ、一命を取り留めたという逸話が残っています。

1251年、モンケが第4代皇帝として即位すると、ブジルはマフムード・ヤラワチらとともに燕京等処行尚書省に配属され、イェケ・ジャルグチ（断事官）の地位に就きました。また、蔚州・定安を食邑として与えられました。

ブジルには4人の息子がおり、それぞれ大元ウルスに仕えて活躍しました。長男の好礼は南宋侵攻に従軍し、昭毅大将軍・水軍翼万戸府達魯花赤の号を授かりました。次男のベク・テムルは吏部尚書となり、三男の補児答思は雲南宣慰使、末子のブラルキは水軍翼万戸招討使となりました。ブラルキの息子オルジェイ・ブカは遼陽省理問を務めました。

このように、ブジルという名はモンゴル帝国の歴史において、異なる出自を持つ2人の人物によって担われており、それぞれが異なる分野で功績を残しました。

参考文献

志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
ソロングト・バ・ジグムド (著)、ジュルンガ/竹中良二 (訳)『モンゴル医学史』農山漁村文化協会、1991年
『元史』巻123列伝10
* 『蒙兀児史記』巻40列伝22

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