ブックエンド (サイモン&ガーファンクルのアルバム)

サイモン&ガーファンクルが1968年に世に送り出したアルバム『ブックエンド』（Bookends）は、彼らのキャリアにおける重要な作品の一つです。音楽専門誌『ローリング・ストーン』が選出した「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」（2012年版）では234位にランクインするなど、その芸術性、革新性、そして商業的成功は、発表から半世紀以上を経ても高く評価されています。

このアルバムの大きな特徴は、アナログレコードのA面に収録された7曲が、アメリカの現実を描写する一種の組曲として構成されている点にあります。これらの楽曲は、短尺のインストゥルメンタルと歌入りの「ブックエンドのテーマ」によって冒頭と末尾を挟み込まれています。この構成は、リスナーが一つの作品世界に没入できる時間を、通常の楽曲尺を超えて引き延ばそうとするポール・サイモンの試みから生まれたとされています。

A面には、当時のロック・ポップスでは珍しい実験的なサウンドメイキングが随所に見られます。例えば、「わが子の命を救いたまえ」では、黎明期であったモーグ・シンセサイザーが効果的に使用されています。また、「老人の会話」は、ニューヨークやロサンゼルスで実際に録音された老人たちの会話を編集・コラージュした、ドキュメンタリー的なサウンドトラックとなっており、日常の生々しい断片を音楽に取り込んでいます。これらの試みは、彼らが単なるフォークロックのデュオではなく、サウンドアーティストとしての側面も持っていたことを示しています。

一方、B面には比較的独立した楽曲が並んでいます。ここには、既にシングルとして発表され、高い人気を得ていた「冬の散歩道」「動物園にて」「フェイキン・イット」といった楽曲が収録されています。

B面を代表する楽曲であり、本作の商業的成功に大きく貢献したのが「ミセス・ロビンソン」です。この曲はもともと、マイク・ニコルズ監督の1967年の大ヒット映画『卒業』のサウンドトラック・アルバムに初めて収録されました。本作には、1968年2月に新たに録音されたバージョンが収められています。『ブックエンド』の発表と同時期にシングルカットされた「ミセス・ロビンソン」は、サイモン&ガーファンクルにとって「サウンド・オブ・サイレンス」に続く2作目の全米シングルチャート第1位を獲得する大ヒットとなりました。

ちなみに、彼らが『卒業』のサウンドトラックの依頼を受けた際、当初は「オーバース」や「パンキーのジレンマ」といった楽曲を提供する案もありましたが、監督であるマイク・ニコルズの判断により、最終的には採用されませんでした。しかし、「ミセス・ロビンソン」の成功は、映画のヒットとも相まって、このアルバム全体の注目度を飛躍的に高める結果となりました。

アルバムジャケットに採用された印象的な写真は、世界的に著名な写真家リチャード・アヴェドンが撮影したものです。

商業面でも、『ブックエンド』はサイモン&ガーファンクルに大きな成功をもたらしました。特にアメリカでは、彼ら自身も参加していた先行ヒット作である映画『卒業』のサウンドトラック・アルバムから首位の座を奪取し、合計7週間にわたってビルボードのアルバムチャート第1位に君臨しました。イギリスにおいても、彼らにとって初めてのアルバムチャート1位を獲得するなど、世界的な人気を確固たるものとしたのです。

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