ブライトシュプールバーン

ブライトシュプールバーン：ナチスが夢見た超高速鉄道網

ブライトシュプールバーン（Breitspurbahn）は、第二次世界大戦中のナチス・ドイツが計画した、壮大な超高速鉄道網です。その特徴は、通常の鉄道よりもはるかに広い3000mmという軌間を採用した点にあります。この規格外の巨大鉄道網は、戦後のヨーロッパ支配を見据えたものであり、その背景にはナチスのイデオロギーが色濃く反映されています。

計画の概要

この計画は、アドルフ・ヒトラー自らがドイツ帝国鉄道に委託したもので、その目的は、ソ連勝利後の大ゲルマン帝国における支配体制の確立にありました。スラブ民族を奴隷化し、東ヨーロッパをドイツ民族の移住地、資源供給地とするという「東部総合計画」と密接に結びついていました。

計画では、ベルリン（戦勝後は「世界首都ゲルマニア」と改称予定）とミュンヘンを起点とし、主要都市を結ぶ路線が構想されました。列車は、全長70m、幅6m、2万4000馬力の巨大機関車8両と、全長50mの2階建て客車15両で編成され、1編成あたり1728人の乗客を収容する予定でした。旅客列車は時速250km、貨物列車も時速100kmという当時としては驚異的な速度で運行する計画でした。

計画された路線

1943年の建設計画によると、以下の路線が構想されていました。

東西線：

ペルシア/インドからバクー、ロストフ・ナ・ドヌ、スターリノ、ポルタヴァ、キエフ、レンベルク、クラカウ、カトヴィッツ、ブレスラウ、コットブスを経由してベルリンへ。そこからハノーファー、ビーレフェルト、ルール地方、アーヘン、リエージュ、サン＝カンタンを通り、パリまで至る広大な路線です。さらに、ベルリンからワルシャワ、ミンスク、レニングラード方面への延伸、モスクワ、カザン方面への延伸、またロストフ・ナ・ドヌからモスクワ、レニングラードを結ぶ路線も計画されました。ハンブルク、ベルリンからはケーニヒスベルク、リガ、ヴィルナ方面へも路線が伸びる予定でした。さらには、ヤクーツクからアラスカ、カナダ、アメリカへと繋がる壮大な構想も存在しました。

南北線：

ハンブルクからベルリン、ライプツィヒ、ゴータ、バンベルク、ニュルンベルク、ミュンヘン、リンツ、ウィーン、プレスブルク、ブダペスト、ベオグラード、ブカレスト、ヴァルナ/ブルガスを経由してイスタンブールへと至る南北線と、ブダペストからブカレストへ向かう路線が計画されました。イスタンブールからはシリア方面への延伸も検討されていました。

南北平行線：

ベルリンからドレスデン、アウシッヒ、プラハ、イグラウ、ツナイムを経由してウィーンに至り、そこからトリエステ、ローマへの延伸も視野に入れていました。

東西線2号線：

ミュンヘンからアウクスブルク、シュトゥットガルトを経由し、カールスルーエ、メッツ、ランスを通ってパリへ。モスクワ、キエフ、プレスブルクを経由するルートも計画に含まれていました。

これらの路線は、広大なヨーロッパをカバーし、当時の鉄道網を遥かに凌駕するものでした。しかし、計画はナチス・ドイツの崩壊と共に、幻に終わりました。

ブライトシュプールバーンを扱った作品

この壮大な計画は、フィクション作品にも影響を与えています。

書籍
月刊誌『メカニックマガジン』（ワールドフォトプレス）
コミックス『国境のエミーリャ』（作：池田邦彦、小学館）
映像作品
ドキュメンタリー『ナチス・ドイツの巨大建造物』シリーズ シーズン4『死の鉄道』（ナショナルジオグラフィック）

関連事項

ブライトシュプールバーンは、以下の概念と関連しています。

高速鉄道
2階建車両
超広軌原子力鉄道 - 1950年代に旧ソ連科学アカデミーが計画した巨大原子力機関車計画
大東亜縦貫鉄道
アジア横断鉄道
ユーラシア・ランドブリッジ
新ユーラシア・ランドブリッジ
トランス＝ユーラシア・ロジスティクス

外部リンク

ヒトラーの「スーパートレイン計画」 ～幻に終わった第三帝国の“新幹線”～



ブライトシュプールバーンは、技術的な野心だけでなく、ナチスの支配欲とイデオロギーを象徴する存在でした。実現しなかったとはいえ、その構想は今もなお、人々の想像力を掻き立てています。

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