ブラックス・アンド・ブルース

『ブラックス・アンド・ブルース』（Blacks and Blues）は、アメリカ合衆国の著名なジャズ・フルート奏者であるボビー・ハンフリーが、1973年にレコーディングを行い発表した通算3作目のスタジオ・アルバムです。

制作背景とサウンドの変化

本作の制作にあたり、ボビー・ハンフリーは、ジャズ界でドナルド・バードなどの作品を手がけ、プロデューサーとして高い評価を得ていたマイゼル兄弟（フォンス・マイゼル、ラリー・マイゼル）と初めて本格的に連携しました。この共同作業は、ハンフリーの音楽スタイルに大きな変化をもたらします。それまでのジャズを基盤とした演奏に、よりグルーヴィーでファンキーな要素を大胆に取り入れることで、クロスオーバー路線の先駆けとなるサウンドを追求するようになりました。

楽曲のクレジット上では、アルバム全曲がラリー・マイゼルの作曲名義となっています。しかし、ボビー・ハンフリー自身の後年の証言によれば、「ハーレム・リヴァー・ドライヴ」といった代表曲を含む多くの楽曲では、マイゼル兄弟から提供されたコード進行やリズムセクション、バック・コーラスなどの土台に対し、ハンフリーがその場でフルートのメロディを即興で吹き込む形で制作が進められたとのことです。これは、従来の作曲プロセスとは異なる、セッション的な共同作業の成果と言えるでしょう。

また、このアルバムでは、ハンフリーはフルート演奏に加え、初めてリード・ボーカルにも挑戦しています。「ジャスト・ア・ラヴ・チャイルド」と「ベイビーズ・ゴーン」の2曲で歌声を披露し、ボーカリストとしての新たな一面を開花させました。

商業的成功

『ブラックス・アンド・ブルース』は、ボビー・ハンフリーにとって商業的にも大きな成功を収めた作品となりました。アメリカの主要なアルバム・チャートであるBillboard 200に初めてランクインし、最高位84位を記録しました。さらに、ビルボードのジャズ・アルバム・チャートでは2位、R&Bアルバム・チャートでも18位に達するなど、ジャズファンだけでなく、R&Bやファンクのリスナーからも広く受け入れられたことを示しています。

また、シングルカットされた楽曲もチャートに登場しました。「シカゴ・ダム」はビルボードのR&Bシングル・チャートで49位に、そしてアルバムの中でも特に人気の高い「ハーレム・リヴァー・ドライヴ」は同チャートで86位を記録しました。

評価と後世への影響

本作は批評家からも概ね肯定的な評価を受けました。音楽評論家のスティーヴ・ヒューイは、オールミュージックのレビューで5点満点中4.5点を与えています。ハンフリーのボーカルについては、「少女のような可憐さがありつつも、このジャンルにおいて平均以上の力強さを持っており、マイゼル兄弟やフレディー・ペレンといった実力派のバッキング・ボーカルにも全く引けを取らない」と評しました。アルバム全体の印象については、「ビーチでのんびり過ごす休日や、仲間と楽しむバーベキュー、あるいはオープンカーでのドライブといった、夏の心地よいそよ風を思わせるような、爽快で楽しさに満ちたサウンド」と表現し、その音楽が持つポジティブな雰囲気を高く評価しています。

『ブラックス・アンド・ブルース』は、後の世代のミュージシャン、特にヒップホップアーティストにも多大な影響を与えました。アルバムのタイトル曲である「ブラックス・アンド・ブルース」は、エリック・B. & ラキムの1992年のアルバム『ドント・スウェット・ザ・テクニック』に収録された楽曲「キープ・ザ・ビート」や、モブ・ディープが1993年に発表したアルバム『Juvenile Hell』に収められた「Peer Pressure (The Large Professor Remix)」など、複数の楽曲でサンプリングソースとして使用されています。これにより、本作のサウンドは時代を超えて多くのリスナーに届けられることとなりました。

収録曲

全曲、ラリー・マイゼル作曲。

1. シカゴ・ダム - "Chicago, Damn" - 6:36
2. ハーレム・リヴァー・ドライヴ - "Harlem River Drive" - 7:55
3. ジャスト・ア・ラヴ・チャイルド - "Just a Love Child" - 6:38
4. ブラックス・アンド・ブルース - "Blacks and Blues" - 4:41
5. ジャスパー・カントリー・マン - "Jasper Country Man" - 5:20
6. ベイビーズ・ゴーン - "Baby's Gone" - 8:49

参加ミュージシャン

ボビー・ハンフリー - フルート、ボーカル
ラリー・マイゼル - アレンジ、指揮、ボーカル
フォンス・マイゼル - トランペット、クラビネット、ボーカル
ジェリー・ピータース - ピアノ、ローズ・ピアノ
フレディー・ペレン - アープ・シンセサイザー、ボーカル
デイヴィッド・T・ウォーカー - ギター
ジョン・ロウィン - ギター
チャック・レイニー - ベース
ロン・ブラウン - ベース
ハーヴィー・メイソン - ドラムス
キング・エリソン - コンガ
ステファニー・スプルール - パーカッション

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