ブラック・ケトル

ブラック・ケトル（Mo'ôhtavetoo'o、1813年 - 1868年11月26日）は、シャイアン族ウタパイ・バンドの酋長です。彼の名前「モケタヴァト」は「黒い薬缶」を意味し、英語名「ブラック・ケトル」として知られています。彼は非常に穏健で平和を愛する人物であり、白人との対立を避け、和平を求める賢明な指導者でした。

アメリカ先住民社会は、完全な合議制民主主義を採用しており、部族を率いるような絶対的な権力者は存在しませんでした。彼らの「酋長」は、部族間の「調停者」としての役割を担い、部族の方針は合議によって決定されました。しかし、アメリカ合衆国側は、この文化を理解せず、「酋長」を部族の「指導者」と誤解し、条約や署名を通じて部族全体を従わせようとしました。

ブラック・ケトルのウタパイ・バンドは、1851年のララミー砦条約で合衆国が「シャイアン族の領土」と認めた地域で、バッファローを追って生活していました。特に、白人交易業者のウィリアム・ベントとは親密な関係を築いていました。ベントは、シャイアン族と結婚し、彼らの居住地の近くにベント砦という交易拠点を設けていました。

1864年9月28日、ブラック・ケトルは他の酋長たちと共にデンバーでの和平会談に参加しました。しかし、その後の11月28日、和平協定を破った米軍のジョン・チヴィントン大佐によって、彼の野営地は襲撃され、無抵抗の人々が虐殺されるという「サンドクリークの虐殺」が発生しました。ブラック・ケトルは妻と共に奇跡的に生き延びました。

それでも、ブラック・ケトルは和平への希望を捨てず、1867年にはメディシンロッジ条約に調印しました。この条約は、平原インディアン部族と合衆国との間に結ばれたもので、インディアンの保留地を定めたものです。しかし、アメリカ合衆国は、アメリカ先住民の社会構造を理解せず、ブラック・ケトルを「指導者」として認識し、彼の平和への努力を「怠慢」と見なしました。

1868年11月26日、ブラック・ケトルは、ワシタ川のほとりで、ジョージ・アームストロング・カスター中佐率いる第7騎兵隊によって奇襲攻撃を受けました。彼のティピーには白旗が掲げられていましたが、兵士たちはそれを無視し、ブラック・ケトルは妻と共に射殺されました。この虐殺は「ワシタ川の虐殺」として知られ、多くの非戦闘員を含む犠牲者を出しました。当時、この事件は合衆国軍や和平委員会からも「平和的なインディアンに対する無差別攻撃」と批判されました。

ブラック・ケトルの生涯は、アメリカ先住民の視点から、白人入植者との悲劇的な衝突を描き出しています。彼の平和への願いと、その後の非業の死は、インディアン戦争における悲劇と不正義を象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

関連事項として、インディアン、サンドクリークの虐殺、シャイアン族、ドッグ・ソルジャー、ウォシタ川の戦い、ウィリアム・ベント、白人至上主義、植民地主義、インディアン戦争、大量虐殺、民族浄化などが挙げられます。

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