ウォシタ川の戦い

ウォシタ川の戦い（虐殺）

ウォシタ川の戦い、またはウォシタの虐殺は、1868年 11月27日にアメリカ軍のジョージ・アームストロング・カスター中佐率いる第7騎兵隊が、ブラック・ケトル酋長率いるシャイアン族の野営地を奇襲した事件です。この事件は「戦い」という名がついていますが、実際にはアメリカ軍によるインディアンの無差別大量虐殺であり、民族浄化の一環とされています。

背景

19世紀初頭、アメリカ合衆国はミシシッピ川以西へと勢力を拡大し、大平原地域に進出しました。この地域は「平原インディアン」と呼ばれる騎馬民族の狩猟の場でした。アメリカの指導者たちはインディアンをフロンティアの障害とみなし、条約を基に保留地へ強制隔離し、その領土を奪いました。多くのインディアン部族が肥沃な農地を奪われ、西部の大平原へ移住させられました。

大平原では、白人入植者によるバッファローの虐殺が進み、インディアンの生活基盤は脅かされました。カリフォルニアやロッキー山脈で金鉱が発見されると、白人たちはインディアンの保留地を無視して移動し、バッファローを殺戮しました。シャイアン族とアラパホー族は「メディシンロッジ条約」後、インディアン準州（現在のオクラホマ州）に強制移住させられました。

しかし、この条約は文字を持たないインディアンに「×印」を書かせるもので、彼らにとって土地は誰のものでもありませんでした。1868年夏には、カンザス州西部などでインディアンによる白人入植地の襲撃が起こり、白人たちが殺害されたり、女性が誘拐されたりしました。

8月、シャイアン族のリトル・ロック酋長は、襲撃の経緯を説明し、関係者の引き渡しを約束しました。しかし、平原インディアンの酋長は「調停者」であり、戦士に命令する権限はありませんでした。

酋長たちによる和平協定

11月初旬、ブラック・ケトル率いるバンドはウォシタ川沿いの他の野営地に合流しました。ブラック・ケトルの野営地は、他の野営地から離れた場所にあり、約250人が居住していました。この野営地には、リトル・ロック酋長もいました。この地域には、シャイアン族、アラパホー族、カイオワ族などの多くのインディアンが居住していました。

コロラド州のデンバーでは金鉱が発見され、白人たちはインディアンを駆逐するために、彼らの頭皮に高額な賞金を懸けました。

11月20日、ブラック・ケトル酋長らはコブ砦でアメリカ軍のヘイズン大佐と会談し、休戦を求めましたが、ヘイズンは休戦協定を結ぶことを拒否しました。ヘイズンは、シェリダン将軍がインディアンとの戦争を継続しており、自身の権限ではどうすることもできないと伝えました。ヘイズンは、インディアンたちがコブ砦に来るべきではないと告げ、彼らは自分たちの居住地に戻るよう伝えました。

ブラック・ケトル・バンドのウォシタ河畔への帰還

11月21日、ブラック・ケトルらはコブ砦を出発し、11月26日の夜にウォシタ川沿いの野営地に戻りました。その前日には、白人入植地を襲撃したインディアン戦士団が野営地に戻っており、第7騎兵隊のエリオット少佐がその足跡を発見しました。また、カイオワ族も白人部隊の接近を伝えました。

11月26日夜、ブラック・ケトルは部族の酋長を集めて会議を開き、コブ砦で得た情報を共有しました。彼らは、誤解を解くためにアメリカ軍に伝令を送ることを決めました。また、翌日、野営地を移動することも決定しました。

ブラック・ケトルの妻は、過去の白人による虐殺事件を経験しており、白人の約束を信用していませんでした。ブラック・ケトルの兄弟は、狼が殺された子供たちを悲しむという幻視を見て、野営地の移動を訴えましたが、聞き入れられませんでした。

カスター中佐による虐殺

一方、アメリカ軍のシェリダン将軍は、インディアンとの和平交渉は不可能と判断し、焦土作戦を決定しました。冬季作戦は兵站上の問題を抱えながらも、インディアンの住居や食料を破壊すれば、彼らは降伏するしかないと考えたのです。シェリダンは3つの部隊をインディアンの冬季野営地へ合流させる作戦を立てました。

11月27日、カスター率いる第7騎兵隊は、ブラック・ケトル・バンドの野営地を襲撃しました。部隊は4つに分かれ、夜明けとともに同時攻撃を開始しました。インディアンたちは驚いて逃げ惑いましたが、ブラック・ケトルとその妻は射殺されました。カスターは野営地を制圧しましたが、生き残った戦士の殺害には苦戦しました。その後、カスターは近くの丘にインディアンの救援隊が集まっていることに気づき、急いで防御態勢を整えました。カスターは殺害したインディアンの所持品や馬を収奪し、運べないものは破壊しました。

カスターはインディアン救援隊を恐れ、日暮れ時に撤退を開始しました。カスター隊は、インディアンたちが逃げたため無事に撤退できました。カスターはシェリダン将軍に、103人の戦士が死亡したと報告しましたが、実際にはもっと多くの人々が殺害されたとされています。

アメリカ陸軍の調査では、第7騎兵隊は21人が戦死し、13人が負傷しました。インディアンの死者は50人以上とされています。戦死した兵士の中には、エリオット少佐の部隊も含まれており、彼はカスターの承認なしにブラック・ケトル・バンドを追跡し、救援に駆け付けたインディアン戦士たちに殺害されました。

カスターの突然の撤退は、軍内での評判を落としましたが、シャーマン将軍とシェリダン将軍からは賞賛されました。

虐殺を巡る白人側の議論

12月初めから、この攻撃の正否が新聞で議論されました。インディアン平和委員会のメンバーは、この攻撃は友好的なインディアンの一団を襲ったものだと指摘しました。インディアン代理人のワインクープ大佐は辞表を提出し、ブラック・ケトルとそのバンドは友好的で、襲撃時は保留地に向かっていたと述べました。斥候は、子供たちが戦士の2倍殺されたと報告しました。

コブ砦のインディアン交易業者は、カスターが友好的なインディアンを攻撃したと述べ、シェリダン将軍に脅迫されたと証言しました。ニューヨーク・タイムズは、カスターを無辜のインディアンを殺すことに喜びを見出す人物だと表現しました。

ウォシタ川でのシャイアン族インディアンの被害者

カスターが報告したウォシタ川でのインディアンの犠牲者数は、長らく議論の対象となってきました。カスターは当初、103人の戦士が死亡したと報告しましたが、実際にはもっと多くの人々が殺害されたとされています。

エドワード・S・ゴッドフリー中尉によると、戦死したインディアン戦士の数の推計は、戦闘の翌日夜に行われたもので、兵士たちが「支給基地」に戻る途中で野営地を造った後でした。カスターは士官たちに野営で見たインディアンの死者数を尋ね、それに基づいて公式報告書を作成しました。

第7騎兵隊にいた混血の斥候は、シャイアン族の捕虜とともにドッジ砦に到着した際、別の犠牲者数を報告しました。彼らは、戦士は20人以上殺害されておらず、残りの約40人は女性だと述べています。シャイアン族の捕虜は、13人のシャイアン族、2人のスー族、1人のアラパホー族が殺害されたと証言しました。

軍の報告書は、女性と子供の被害をほとんど考慮していませんが、カスターは後に、戦闘中に女性と子供が殺害されたことを認めています。

カスターは12月に戦場を再訪した後、当初の推計を修正し、140人のインディアンが戦死したと報告しました。歴史家は、カスターの数字は誇張されており、その情報源は不明であると指摘しています。しかし、インディアン側の推計も一致しないとされています。

シャイアン族の証言の中には、死者の実名も含まれており、ジェローム・グリーンは、死者のリストを作成し、男性40名、女性12名、子供6名が死亡したとしています。ハードーフは、これらのリストを基に「氏名の合成リスト」を作成しました。

「戦闘」か「虐殺」か

カスターは、ウォシタ川での出来事を虐殺とは考えていませんでした。彼は、女性が武器を取ったために殺害されたと述べています。歴史家のジェローム・グリーンは、兵士たちは女性と子供たちを保護するための措置を取ったと述べています。

歴史家のポール・ハットンは、ウォシタ川の戦闘は一方的なものだったが、虐殺ではなかったと述べています。しかし、歴史家のジョセフ・B・ソバーンは、ブラック・ケトルの野営地破壊は一方的であり、虐殺だと述べています。

注目すべきは、カスターの直接攻撃で、第7騎兵隊の戦死者は1人だけであり、他の戦死者はエリオット少佐の部隊が救援隊によって殺害されたということです。また、A中隊とD中隊の損失はわずかであり、C中隊とK中隊は無傷でした。

虐殺のあと

シャイアン族にとって、カスターの行為は明らかな「大虐殺」でした。この虐殺の後、アメリカ合衆国はインディアンとの和平交渉を避けるようになり、インディアンが抵抗すれば、容赦なく武力で鎮圧する民族浄化をさらに激化させました。

シャイアン族は、サンドクリークの虐殺とともに、この虐殺を決して忘れませんでした。8年後、彼らはリトルビッグホーンの戦いでカスターを打ち破り、死んだカスターの耳に「和平の調停がよく聞こえるように」と錐で穴を開けたと伝わっています。

映像作品に登場したウォシタ川の虐殺

ウォシタ川の虐殺は、いくつかの映画やテレビシリーズで描かれています。

小さな巨人 (1970年): この映画は、ウォシタ川での攻撃を、ソンミ村虐殺事件に似た虐殺として描きました。
ドクタークイン大西部の女医物語: このテレビシリーズでは、ウォシタ川の虐殺が描かれ、カスターがコロラドの白人入植者を誤った方向に導いたと描かれています。
ラストサムライ: この映画では、主人公がウォシタ川の虐殺に参加した過去に悩まされます。
西部へ: このテレビシリーズでは、カスターがブラック・ケトルを殺害しようとするシーンがあります。

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