ブラック・サタデー (プロレス)

ブラック・サタデー：プロレス界の転換点

「ブラック・サタデー（Black Saturday、黒い土曜日）」とは、1984年 7月14日に起こったプロレス界における出来事を指します。当時、ビンス・マクマホン率いるWWF（現WWE）が、ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング（GCW）の看板番組であったスーパーステーションWTBS（現TBS）の毎週土曜夜の放送枠を奪取しました。この事件は、アメリカのプロレスファンによって「黒い土曜日」と名付けられ、その後の10年以上にわたるアメリカプロレス界の熾烈な視聴率戦争「マンデー・ナイト・ウォーズ」の幕開けとなりました。

事件の背景

GCWの週一回のテレビシリーズは、1972年に当時のWTCG局オーナーのテッド・ターナーが、WQXI局から放映権を買収した後に始まりました。この時から、GCWの番組は毎週土曜日夜に2時間枠で放映されました。1976年、WTCG局がケーブルテレビ放送を開始してスーパーステーションWTBS局に改名すると、GCWの試合はNWAテリトリーの中で初めてアメリカ全土で視聴が可能となりました。1982年、GCWは番組名を『ジョージア・チャンピオンシップ・レスリング』から『ワールド・チャンピオンシップ・レスリング』へと改名しました。

1983年、WWFはケーブルテレビのUSAネットワーク局の日曜朝の時間枠を買い、番組『オール・アメリカン・レスリング』の放映を開始し、地上波での放送を全国的に展開しました。翌年にはUSAネットワーク局で『チューズデー・ナイト・タイタンズ』の放映も開始しています。

1984年当時、アメリカのケーブルテレビでプロレス番組を放映していたのは、USAネットワーク局とアトランタのWTBS局のみでした。全国展開を狙うマクマホンは、WTBS局の放送枠獲得を目指し、局オーナーのターナーに交渉を試みますが、これは拒否されます。そこでマクマホンは、GCWの首脳陣の一部が、ブッカーであったオレイ・アンダーソンのブッキングと会社の経営方法に不満を持っていた点に着目し、GCW株の25%を所有していたジャック・ブリスコ、ジェリー・ブリスコのブリスコ兄弟から株式を取得。さらに、アンダーソンのクーデターによって辞任に追い込まれていたプロモーターのジム・バーネットからもGCW株を買収した結果、WWFはGCWの過半数の株式を掌握し、WTBS局の土曜日夕方の番組枠を手に入れることに成功しました。

GCWによる最後の番組は1984年7月7日に放送され、翌週7月14日の放送では、司会のフレディ・ミラーが新オーナーであるマクマホンを紹介。マクマホンは視聴者に対し、WWFの新番組もこれまでと変わらず期待できる内容だとアピールしました。

しかし、WWFがTBSで放送した番組は、GCW時代のようなスタジオマッチを中心とした内容ではなく、USAネットワーク局での番組や、マディソン・スクエア・ガーデンなどの大会場での試合のハイライトが中心でした。この内容は、アトランタのスタジオで試合を収録し、オリジナルの番組を提供するとした契約に違反していました。

反響とその後

TBSでのWWFの番組は、開始当初から視聴率が低迷しました。これまでの試合を重視したNWAスタイルから、WWFのソープオペラのようなスタイルへの変化を嫌ったGCWファンからの苦情がTBSに殺到し、事態はさらに悪化します。

ターナーは視聴率の低下を問題視し、日曜夜の時間枠にビル・ワットが運営する『ミッド・サウス・レスリング』（MSWA）の中継放送を開始しました。TBSでのプロレス番組の独占権を主張していたマクマホンはこれに不満を抱きましたが、MSWAの中継は視聴率でWWFの番組を大きく上回りました。さらに、ターナーは土曜朝にアンダーソンの『チャンピオンシップ・レスリング・フロム・ジョージア』を放送し、この番組ですらWWFの番組を上回る視聴率を獲得しました。

WWFによるTBSでの番組は長くは続かず、1985年4月、マクマホンはTBSの放送枠とGCWの名称を、ミッド=アトランティックを本拠地としていたジム・クロケット・プロモーションズに売却しました。この団体は、後にWCWへと発展します。一方、マクマホンはUSAネットワークとの契約を継続し、1985年1月にはTBSで放送していた番組と類似した内容の『WWFプライム・タイム・レスリング』の放送を開始しました。

この一連の出来事は、マクマホンとターナーがその後10年以上にわたり、プロレス業界で敵対関係となるきっかけとなりました。このライバル関係は、2001年にマクマホンが破産したWCWを買収するまで続きました。

ターナーがワットとアンダーソンに放送枠を与えたことは、他のプロレス団体が全国的なケーブルテレビ契約を増やすことにも間接的につながりました。バーン・ガニアのAWAは1985年にESPNと契約し、フリッツ・フォン・エリックのWCCWは1986年にESPNでの週一回の放送枠を獲得。1990年には、ハーブ・エイブラハムのUWFがスポーツチャンネル・アメリカで放送を開始しました（ただし、これらの団体は1994年までにケーブルテレビ放送から撤退しています）。

ブラック・サタデーは、アメリカのプロレス界における勢力図を大きく塗り替えるとともに、その後の業界の発展に大きな影響を与えた出来事として、プロレス史に刻まれています。

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