ブラッドフォード・A・スミス

ブラッドフォード・A・スミス（Bradford A. Smith）は、1931年 9月22日にこの世に生を受け、2018年 7月3日に惜しまれつつ逝去した、アメリカ合衆国の著名な天文学者です。ニューメキシコ州立大学やアリゾナ大学で教鞭を執り、ハワイ大学天文学研究所でも研究員として名を馳せました。彼の輝かしいキャリアは、米ソ両国の重要な惑星探査計画への参画、そしてハッブル宇宙望遠鏡（HST）の観測装置開発における貢献によって、天文学史に大きな足跡を残しました。

マサチューセッツ州ケンブリッジで誕生したスミスは、1954年にノースイースタン大学を卒業しました。その後、ニューメキシコ州立大学に進み、冥王星の発見で知られるクライド・トンボーが新たに立ち上げた研究室で、天文学の研究に情熱を注ぎ始めました。彼は研究活動と並行して、大学の天文観測施設の構築に尽力し、惑星観測分野の中心的役割を担いました。また、カリフォルニア工科大学での客員研究員としての経験も、彼の視野を広げました。こうした地道な研究活動を経て、1972年にニューメキシコ州立大学より博士号を取得しました。

1960年代半ばからは、アメリカ航空宇宙局（NASA）主導の惑星探査計画に深く関わるようになります。火星を探査したマリナー6号および7号ミッションに従事し、続くマリナー9号では撮像チームの副主任を務めました。これらの経験が高く評価され、太陽系の外縁部への旅を記録した歴史的なボイジャー計画では、撮像チームを率いる責任研究者に抜擢されました。さらに、火星の表面環境を詳細に調査したバイキング計画にも参加するなど、初期の主要な惑星探査ミッションにおいて、極めて重要な役割を果たしました。

宇宙からの探査だけでなく、地上観測技術の革新にも貢献しました。天文学におけるCCD（電荷結合素子）の導入を推進した先駆者の一人であり、観測の高精度化に貢献しました。また、共同研究者と共に土星の衛星テレストを発見するという功績も残しています。

バイキング計画後の宇宙開発においても、彼の活動は続きました。ソビエト連邦による金星探査のベガ計画や火星衛星フォボスを探査するフォボス計画に参加する一方、ハッブル宇宙望遠鏡の主要な観測装置である広視野惑星カメラ（WFPC）の開発に携わりました。さらに、研究対象を太陽系外の惑星系へと広げ、赤外線天文衛星 IRASのデータを用いて、がか座β星の周囲に星周円盤が存在することを初めて検出しました。これは、系外惑星系がどのように形成されるのかを示す視覚的な証拠として、初めて捉えられた画期的な成果でした。その後も、ハッブル宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ・多天体分光器（NICMOS）チームの一員として、星周円盤や残骸円盤の研究を深めました。

国際的な学術活動にも精力的に取り組み、国際天文学連合（IAU）の会員として活躍しました。特に、惑星と衛星の物理学的研究を専門とする第16委員会では中心的な役割を担い、1976年から1979年まで副委員長、その後1982年まで委員長を務めました。また、惑星系の命名に関するワーキンググループにも参加し、その中で火星の命名委員長を務めるなど、学術分野の組織運営や標準化にも貢献しました。

[2018年]]7月3日、ブラッドフォード・A・スミスは、ニューメキシコ州サンタフェの自宅で、自己免疫疾患である重症筋無力症の合併症により亡くなりました。86歳でした。彼の天文学における多大な功績を称え、[[小惑星]は彼の名にちなんで「ブラッド・スミス」と命名されています。

彼は専門的な論文に加え、一般向けの天文書を複数共著しており、広く天文学の面白さを伝える活動も行いました。また、『スカイ&テレスコープ』や『ナショナルジオグラフィック』といった著名な科学・啓蒙雑誌にも記事を寄稿し、一般読者への普及活動にも努めました。

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