ブランカニエベス

白黒サイレント映画で彩る、新たな白雪姫譚『ブランカニエベス』

パブロ・ベルヘル監督による2012年製作のスペイン映画『ブランカニエベス』(Blancanieves)は、誰もが知るグリム童話「白雪姫」を、白黒サイレント映画という大胆な手法で再構築した作品です。時代設定は1920年代のアンダルシア地方。鮮やかな色彩と華やかな音楽に彩られた従来の白雪姫像とは異なり、モノクロームの映像と時代を感じさせる衣装、そして無音の演出が、独特の雰囲気を醸し出しています。

ベルヘル監督自身、本作を「ヨーロッパのサイレント映画へのラブレター」と表現しており、特にフランスの巨匠アベル・ガンスへの敬愛が強く反映されている点が注目されます。アベル・ガンスの代表作である『ナポレオン』『戦争と平和』『鉄路の白薔薇』といった作品からインスピレーションを受け、その作風を彷彿とさせる演出が随所に見られます。サイレント映画特有の演出技法や視覚効果を駆使することで、白雪姫の物語に新たな解釈と深みを与え、現代的な視点からも楽しめる作品に仕上がっています。

物語は、継母であるエンカルナに虐げられるカルメン（マカレナ・ガルシア）を中心に展開します。継母からの圧力、そして運命に翻弄されながらも、彼女は自分の道を切り開こうとします。従来の白雪姫像とは異なる、自立的で力強い女性像が描かれている点も、本作の魅力と言えるでしょう。

キャストには、マカレナ・ガルシア、マリベル・ベルドゥ、ダニエル・ヒメネス・カチョといったスペインを代表する実力派俳優が名を連ねています。彼らの繊細で力強い演技は、無音の映画表現において重要な役割を果たし、登場人物たちの感情や葛藤を効果的に伝えています。

『ブランカニエベス』は、単なる白雪姫の翻案にとどまらず、サイレント映画という表現形式の可能性を再発見する、芸術性の高い作品です。その独創的な映像美と、時代を超越した普遍的なテーマは、観客に深い感動と余韻を与えます。

製作過程においても、興味深いエピソードがあります。ベルヘル監督は、クリスティーナ・ガルシア＝ロデロの写真集『España Oculta』をインスピレーションの源としており、そこから着想を得て脚本を執筆しました。2003年に脚本を完成させ、資金調達を経て、2011年に撮影を開始。カンヌ国際映画祭で『アーティスト』が上映されたことも、制作に影響を与えたと言われています。

数々の映画賞を受賞したことも、『ブランカニエベス』の高い評価を示す証です。第85回アカデミー賞外国語映画賞スペイン代表作品として出品され、サン・セバスティアン国際映画祭では審査員特別賞と主演女優賞、第27回ゴヤ賞では作品賞などを受賞。さらに、2013年のガウディ賞でも作品賞を受賞するなど、その高い評価は国内外に広がっています。

白黒サイレント映画という枠組みを超え、普遍的なテーマと芸術性の高さで観客を魅了する『ブランカニエベス』。この作品は、映画史に新たな一章を刻んだと言えるでしょう。一見の価値ありの作品です。

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