ブランコ・ド・ヴーケリッチ

ブランコ・ド・ヴーケリッチ：ジャーナリストにしてゾルゲ諜報団の一員

ブランコ・ド・ヴーケリッチ（1904年8月15日 - 1945年1月13日）は、クロアチア出身のユーゴスラビア人スパイであり、リヒャルト・ゾルゲが率いる諜報団の一員として活動しました。彼は日本でジャーナリストとして活動する傍ら、諜報活動に従事し、ゾルゲ事件で逮捕され、獄中で生涯を終えました。

生い立ちと多言語環境

ヴーケリッチは、オーストリア＝ハンガリー帝国領だったオシエクで生まれました。彼の父は軍人、母はハンガリー系ユダヤ人の資産家の娘という、複雑な背景を持っていました。幼少期から帝国内を転々とし、ザグレブに落ち着いた後、父はユーゴスラビア王国の将校となりました。ヴーケリッチ家は文才に長けた家系であり、彼自身も幼い頃から多言語に触れる環境で育ちました。クロアチア語に加え、7つの言語を操り、スペイン語やロシア語も理解できたといいます。

社会主義への傾倒と留学

ザグレブのギムナジウム在学中から社会主義に関心を抱き、美術アカデミーでは共産主義学生部会で活動しました。その後、チェコスロバキアのブルノ工科大学に留学し、ユーゴスラビアへの共産主義関連資料の輸送ルートに関わりました。しかし、国内の社会主義運動が弾圧されたため、フランスへ留学し、パリ大学で法学を学びました。パリでも左翼運動に関わり、デンマーク人女性エディット・オルソンと結婚しましたが、幸福な結婚生活とは言えませんでした。

コミンテルンとの接触と来日

パリ大学卒業後、一時帰国を経て再びパリに戻り、コミンテルンとの接触を持つようになりました。当初はコミンテルンの知的貧困を批判して協力を拒否していましたが、イヴァン・クラーリらの説得を受け、情報収集の任務として日本への派遣を受け入れました。ジャーナリストとして日本に渡るため、フランスの写真雑誌やユーゴスラビアの新聞社の特派員としての身分を得て、1933年2月に横浜に到着しました。

日本での活動

来日後、ヴーケリッチはジャーナリストとして活動しながら、ゾルゲ諜報団の一員として諜報活動を行いました。彼の主な任務は、記者としての情報収集、資料の写真撮影・現像・複写、そして無線発信の援助でした。彼は「ポリティカ」に多数の記事を寄稿し、日本の政治、軍事、外交、風俗、世相などを伝えました。また、アヴァス通信社の特派員としても活動し、日本の情報を海外に発信しました。

1940年には、津田英学塾の学生だった山崎淑子と結婚しました。エディットとは離婚し、淑子と新たな生活を始めましたが、諜報活動は継続されました。

ゾルゲ事件での逮捕と獄死

1941年10月18日、ヴーケリッチはゾルゲや他の諜報団メンバーとともに逮捕されました。逮捕後、彼は取り調べを受け、巣鴨拘置所に収監されました。家族との通信を許され、日本語の筆記を独学で習得し、手紙の中で戦争終結の見込みなどを語っていました。1944年4月、無期懲役の判決が確定し、網走刑務所に移送されました。収監生活で体力を消耗し、慢性消化不良に苦しみ、1945年1月13日に急性肺炎で獄死しました。

死後

死後、ヴーケリッチはソビエト連邦から「大祖国戦争第一級勲章」を授与されました。彼の妻、山崎淑子は、夫の遺骨を納めた墓所を建立し、ヴーケリッチが結婚前に送った手紙とともに埋葬しました。

ブランコ・ド・ヴーケリッチは、複雑な時代に翻弄されながらも、自らの信じる道を貫いた人物でした。彼の生涯は、スパイという一面だけでなく、ジャーナリストとしての才能、国際的な視野、そして愛国心など、多面的な魅力に満ちています。

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