ブルカ

ブルカ：宗教、文化、そして社会の狭間で

ブルカは、イスラム教徒の女性が着用する伝統的なベールの一種です。アラビア語で「burquʿ」、ダリー語で「Bōrqā」と呼ばれるこの衣服は、全身を覆い、顔の部分のみ網状の布で視界を確保する構造が特徴です。歴史的にはアラビア半島や近隣諸国で用いられてきましたが、現代においてはアフガニスタンで広く見られるため、日本語ではアフガニスタン女性の着用するベールを指すことが多いです。

ブルカは、帽子に縫い付けられた襞のある絹などの布でテント状に作られることが多く、かかとまで覆う全身型のものが一般的です。イランなどで一般的なチャードルがスカーフ状であるのに対し、ブルカは明確な形状を持つ点が大きな違いです。なお、西欧語圏やアフガニスタンではチャードリーと呼ばれることも多く、ブルカはチャードリーのなかでも、顔の部分を覆う面紗が本体とは別の布でできているものを指す場合もあります。

ブルカの目的は、ヒジャブと同様に女性の性的魅力を覆い隠し、性的暴行などの被害から身を守ることにあります。しかし、クルアーンやハディースに基づくイスラム教における服装規定の解釈は多様であり、顔まで覆うべきか否かについては現在も議論が続いています。デーオバンド派など、顔もベールで覆うべきとする解釈もあります。

欧州におけるブルカと社会問題

近年、ブルカは欧州において複雑な社会問題と深く結びついています。脱宗教性や政教分離の概念、イスラム系移民との軋轢など、様々な社会問題を象徴する存在となっているのです。

フランスでは、2010年に公共の場でのブルカ着用を全面的に禁止する法律が施行されました。これは、信教の自由や表現の自由の侵害であるとの批判もありましたが、テロ対策や社会統合の観点から、政府は禁止を正当化しました。ベルギー、オランダ、デンマークなども同様の禁止措置を講じており、スペインなどでも検討が続けられています。

ブルガリアでは、公共の場所でのブルカ着用を禁止する法案が2016年に可決されました。ただし、宗教施設内や職業、文化活動、健康上の理由で着用が認められる例外規定も設けられています。スイスでも2021年の国民投票で、公共の場でのブルカとニカブの着用を禁止する法案が僅差で可決されました。これに対し、人権侵害や差別であるとの批判も根強く残っています。

一方で、ブルカを自らの意思で着用する女性も多数存在します。彼女たちは、ブルカ着用を女性の抑圧と結びつける見方に反論し、西洋の服装観を押し付けることへの批判も展開しています。ブルカの着用をめぐる議論は、宗教、文化、社会、そして個人の自由の複雑な絡み合いを示すものです。この問題は、今後も世界中で議論を呼び続けるでしょう。

参考文献

Dupree, Nancy Hatch, 'Clothing xiii. in Aghanistan,' The Encyclopædia Iranica, vol.5, New York, 1992, pp.811-15.
ふいめい「「ブルカ」三つの謎」」[2] （2005年12月31日閲覧）
* Stillman, Y.K. , et al., 'Libās,' The Encyclopedia of Islam,, vol.5, Leiden, 1986, pp.732-53.

もう一度検索