ブルーストリーク (ミサイル)

ブルーストリーク ミサイル

ブルーストリークミサイルは、1950年代半ばにイギリスが開発に着手した中距離弾道ミサイルです。これは、当時の核抑止力の中核を担っていた戦略爆撃機3Vボマーが、1960年代半ばに退役を控えていたため、その代替となる新たな戦略核兵器として計画されました。

開発の背景

第二次世界大戦後のイギリスは、当初、戦略爆撃機による自由落下式核爆弾を核抑止力の柱としていました。しかし、冷戦下の国際情勢において、信頼できる核抑止力を維持するためには、戦略爆撃機よりも即応性や生残性に優れる弾道ミサイルが不可欠であることが明らかになってきました。また、政治的には、イギリスが世界的な主要国としての地位を保つためにも、独自の核抑止力を持つことが重要視されていました。当時の原子力協定によりアメリカからの兵器購入が制限されていたことも、自国開発への動機となりました。

1954年、アメリカはイギリスに対し、弾道ミサイルの共同開発を提案します。アメリカが長射程の大陸間弾道ミサイルを担当し、イギリスはアメリカの技術支援を受けながら、射程3,700kmクラスの中距離弾道ミサイルを開発するというものです。この提案は、同年8月のウィルソン-サンズ合意として正式に受け入れられ、ブルーストリークの開発計画がスタートしました。これは、アメリカからミサイル技術を習得する機会でもありました。初期の要求仕様は、ロケット推進研究所からの技術的な助言も取り入れられ、王立航空研究所から示されたOR.1139に基づき、最低射程2,780kmが求められました。

技術と課題

ミサイル本体の製造契約はデ・ハビランド社が獲得しました。エンジンの開発はロールス・ロイス社が担当し、ロケットダイン社のS3Dエンジンを強化したRZ2液体燃料ロケットエンジンが計画されました。RZ2エンジンにはいくつかのバージョンがあり、推力偏向機能を持つことが当時の特徴でした。この機能は、打ち上げ後の急激な重量減少にもかかわらず推力が一定に近いため、誘導システム（オートパイロット）に大きな負担をかける課題がありました。また、燃焼停止時の激しい振動も技術的な問題の一つでした。誘導装置はスペリー・ジャイロスコープ社、核弾頭は核兵器研究機関がそれぞれ担当しました。

開発費用は当初、1955年の試算で5,000万ポンドと見積もられましたが、1959年には3億ポンドにまで高騰し、計画の実現性に対する懸念が高まりました。また、米ソと比較して開発ペースが遅いとの批判も聞かれ、最終的な総費用は5億5,000万ポンドから13億ポンドに達すると予測されました。

計画の中止

政府内部では、1958年頃から計画の継続是非が議論されていましたが、結局1960年にブルーストリークの弾道ミサイルとしての開発は中止されました。主な理由の一つは、ミサイルの運用に関する技術的な課題でした。ブルーストリークは液体酸素とケロシンを燃料としていましたが、氷の付着を防ぐために燃料は発射直前に注入する必要がありました。最大積載量では20トン以上のケロシンと60トンの液体酸素が必要で、この注入に約4.5分を要しました。この長い準備時間は、冷戦下の緊張状況下で懸念される奇襲攻撃に対し、ミサイルを極めて脆弱なものとしていました。

この即応性の問題に対処するため、デ・ハビランド社は10時間の待機体制を可能にする機能を開発しました。これにより、命令から30秒以内に発射できる状態を最大10時間維持できます。この機能を持つミサイル2基をペアで運用し、交互に待機させることで、常にいずれか一基が30秒スタンバイ状態を保つ方式が考案されました。また、燃料注入中の脆弱性からミサイルを守るため、地下サイロからの発射が検討されました。このサイロは、1メガトンの核爆弾が800m以内で炸裂しても耐えられる設計とされ、これはイギリス独自のアイデアで、後にアメリカでも採用されました。しかし、このような耐核サイロを建設できる堅固な岩盤層はイングランド南部を中心に存在するものの、郊外に多数建設することによる経済的、社会的、政治的な問題が大きく、国内に適切な建設地を見つけることは極めて困難でした。結局、カンブリア州のスパディーダム空軍基地に1基のサイロが建設されたのみでした。ここではRZ2エンジンやミサイル本体の地上試験も行われました。飛行試験は国内で行える場所がなかったため、オーストラリアのウーメラ試験場で実施されました。

最終的に、増大する予算と、第一撃に対する脆弱性を主要な理由として、英国政府はブルーストリーク計画の中止を決定しました。特に、海軍元帥マウントバッテン伯爵は、潜水艦からの核攻撃能力こそが奇襲に対応できる手段であるとして、計画中止を強く主張しました。

ブルーストリークの中止後、イギリスはアメリカとの共同開発による空中発射弾道ミサイル「スカイボルト」に期待をかけましたが、これも開発中止となります。最終的にイギリスは、アメリカからポラリス潜水艦発射弾道ミサイルを購入し、自国製のレゾリューション級原子力潜水艦に搭載することで、独自の核抑止力を確保することになりました。

人工衛星打ち上げ用ロケットへの転用

軍事計画の中止後も、ブルーストリークの開発に投じられた莫大な費用を無駄にしないため、これを人工衛星打ち上げ用ロケット（ローンチ・ヴィークル）として転用する計画が浮上します。当初、「ブラックプリンス」の名称で、ブルーストリークを第1段、ブラックナイトロケット派生型を第2段とするイギリス単独の計画が検討されました。しかし、これも費用がかかりすぎることが判明します。

そこで、ブルーストリークの有効活用と宇宙開発における米ソへの対抗を目指し、イギリスが中心となって1964年に欧州ロケット開発機構（ELDO）が設立されます。ELDOの「ヨーロッパロケット計画」では、ブルーストリークを引き続き第1段として使用し、第2段と第3段はフランスとドイツがそれぞれ担当する国際共同開発プロジェクトとなりました。

ヨーロッパロケットの試験は、1964年から1970年までウーメラ試験場で行われました。ブルーストリーク単体やダミー上段との組み合わせによる最初の5回の飛行試験は成功しましたが、フランスとドイツの上段ロケットやイタリアのフェアリングを組み込んだ6回目以降の打ち上げは、全て失敗に終わりました。1971年にはフランス領ギアナのクールー宇宙センターからの打ち上げも試みられましたが、これも失敗に終わります。

結局、度重なる失敗と予算超過により、ヨーロッパロケット計画は最終的に1972年に中止され、ブルーストリークはその役目を終えました。ELDOはこの失敗の経験を教訓として、1975年に欧州宇宙機関（ESA）へと発展しました。

ブルーストリークは、弾道ミサイルとしては実戦配備されませんでしたが、その開発で培われた技術、特に液体燃料ロケットや誘導システムに関するノウハウは、その後の宇宙開発計画に引き継がれることとなりました。

もう一度検索