ブロッサム・ディアリー

ブロッサム・ディアリー（Blossom Dearie）は、1924年4月28日にアメリカ合衆国ニューヨーク州のイースト・ダーラムで生を受け、2009年2月7日にこの世を去った、傑出したジャズ・シンガーでありピアニストです。スコットランド系とノルウェー系の血を引く彼女は、子供のように愛らしく、どこかハイトーンで個性的な歌声と、チャーミングかつ洒脱なピアノ演奏で知られ、ジャズ界において独自の地位を確立しました。

幼い頃からクラシック・ピアノの手ほどきを受けていましたが、10代になるとジャズの世界に魅了され、ジャズ・ピアノへと転向します。1940年代半ばからは、ウディ・ハーマンやアルヴィノ・レイといった当時人気の著名なオーケストラのコーラスグループに参加し、経験を積みました。また、同時にクラブやバーで弾き語りを行うカクテル・ピアニストとしても活動し、この時期に後のキャリアに繋がる多様な音楽的素養を培いました。

1952年、彼女はフランスへと渡ります。そこでクリスチャンヌ・ルグラン（作曲家ミシェル・ルグランの姉）らと共にヴォーカルグループ「ザ・ブルー・スターズ」を結成しました。このグループはヨーロッパで注目を集め、1954年にはバークレー・レコードからアルバムを発表。ブロッサム自身もミシェル・ルグランと共に編曲を手掛けるなど、パリの地で新たな才能を開花させました。

1956年には、自身のリーダー名義としては初のアルバムとなる『Blossom Dearie Plays "April in Paris"』を録音しますが、この作品は歌を含まないピアノ単独の演奏集でした。しかし同年中にアメリカに戻り、ジャズの名門ヴァーヴ・レコードと契約。ここで発表したセルフタイトルのアルバム『ブロッサム・ディアリー』で、その愛らしい歌声と洗練されたピアノスタイルが広く知られることとなり、以降ヴァーヴから数々の名盤をリリースしました。ヴァーヴ時代の主要作品には、『ギヴ・ヒム・ジ・ウー・ラ・ラ』（1957年）、『ワンス・アポン・ア・サマータイム』（1958年）、『シングズ・コムデン・アンド・グリーン』（1959年）などがあり、これらのアルバムは彼女のユニークな才能を決定づけるものとなりました。

1960年代に入ると、ルートビアのCMソングを歌ったことがきっかけで、そのキャンペーンの一環として企画されたユニークなコンセプトアルバム『シングス・ルーティン・ソングス』（1962年）を発表。さらに、メジャーレーベルであるキャピトル・レコードからも『メイ・アイ・カム・イン？』（1964年）をリリースするなど、活動の幅を広げました。1965年末にはイギリスのロンドンへ渡り、1966年から1970年にかけて英フォンタナ・レコードから4枚のアルバムを発表。ライブ録音も含むこれらの作品は、イギリスでも彼女の人気が高かったことを示しています。

1974年には、兄ウォルター・バーチェットを社長に迎え、自身の自主レーベル『ダフォディル・レコード』を設立しました。これにより、彼女は自身のペースで、より自由に音楽制作を行うことが可能になりました。以降、キャリア晩年まで多くの作品をダフォディルから発表しています。また、同時期にはアメリカの子供向け人気教育番組『スクールハウス・ロック!』のサウンドトラックにも参加し、ボブ・ドロー作曲の「Figure Eight」などで印象的な歌声を披露し、世代を超えたファンを獲得しました。

晩年まで精力的に活動を続け、2006年頃まではニューヨーク市内のクラブなどでライブを行っていました。小柄な体から放たれる独特の歌声と、時にクールで時にスウィング感溢れるピアノ演奏は、多くの聴衆を魅了し続けました。そして、2009年2月7日、長年の活動の末、マンハッタンのグリニッジ・ヴィレッジにて、84歳でその生涯を閉じました。ブロッサム・ディアリーの音楽は、その独自性と温かさによって、今なお世界中の音楽ファンに愛され続けています。

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