ブロントテリウム

ブロントテリウム：雷の獣

ブロントテリウム（Brontotherium）は、約4000万年前から3100万年前の始新世末期から漸新世前期にかけて生息していた、奇蹄目の哺乳類です。ブロントテリウム科に属し、その特徴的な姿から「雷の獣」を意味する学名が与えられました。この名は、アメリカ先住民のスー族の伝承に由来しています。

形態と特徴

ブロントテリウムは、体長約4.3メートル、肩高約2.5メートル、体重約5トンにも達する大型の草食動物でした。最も特徴的なのは、鼻の上に生えた大きく太いY字型の角です。この角は、サイの角とは異なり、前頭骨が伸びて形成されたもので、皮膚に覆われたオッシコーンという構造でした。化石には、この角を使って儀礼的な闘争をしていたと思われる痕跡が残っています。

ブロントテリウムの頭蓋骨は比較的大きいものの、顔面の割合は小さく、脳函も小さいため、脳が特に大きかったわけではありません。歯の構造は硬い草を食べるのには適しておらず、柔らかい水辺の植物や木の葉などを主食としていたと考えられています。

肩付近の胸椎からは大きな棘突起が伸びており、これは重い頭蓋骨を支える筋肉の付着点となっていました。

名称の由来

スー族には、「空に棲み、嵐の空を駆け巡る巨大な馬」についての言い伝えがありました。彼らは、ロッキー山脈東部のバッドランドから出土する巨大な獣の化石を、この伝説の「馬」のものだと考えました。古生物学者のマーシュは、この伝承にちなんで、この生物に「雷の獣」を意味するブロントテリウムという名前を与えました。

分布と生息環境

ブロントテリウムは、主に北アメリカ大陸に生息していました。当時、活発に噴火を続けていたロッキー山脈の麓に群生していたと考えられており、集団で火山灰に埋まった状態の化石も発見されています。

分類

ブロントテリウムの分類は、研究者によって意見が分かれる部分もありますが、2004年に発表された新しい分類では、ブロントテリウム属は、ブロントプス属などと共にメガセロプス属に含まれるとされています。これは、ブロントテリウム科の進化における新たな解釈を示唆するものです。

関連する生物

ブロントテリウムと同じ時代や地域に生息していた、あるいは近縁の生物として、以下のものが挙げられます。

エンボロテリウム：同時代のモンゴルに生息していたブロントテリウム科の大型草食獣。
ウインタテリウム：ブロントテリウム科が繁栄する前の始新世中期に、北アメリカに生息していた大型草食獣（恐角目）。
ブロントプス：ブロントテリウムと同時代、同じ北アメリカに生息していたブロントテリウム科の大型草食獣。食性の違いにより棲み分けていたと考えられます。
メガセロプス：北アメリカに生息したブロントテリウム科の大型草食獣。ブロントテリウムやブロントプスと同属あるいは近縁とされています。

ブロントテリウムは、その独特な形態と進化の歴史を通じて、古生物学における重要な研究対象であり続けています。彼らの化石は、古代の生態系や生物多様性を理解する上で貴重な情報を提供してくれます。

参考文献

富田幸光文、伊藤丙雄、岡本泰子イラスト 『絶滅哺乳類図鑑』 丸善、2002年、ISBN 4-621-04943-7。
今泉忠明 『絶滅巨大獣の百科』 データハウス、1995年、ISBN 4-88718-315-1 C0345。

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