ブンチューク

ブンチューク：権威の象徴、その歴史と変遷

ブンチュークは、竿の先に馬やヤクの尾などの装飾を施したもので、主に東欧、中東、東アジアにおいて、政治的・軍事的な権威の象徴として用いられました。日本の馬印に相当するものとされています。別名として、トゥグやクタスとも呼ばれます。

起源と発展

ブンチュークの起源は、南ウクライナから東満州にかけての広大な草原地帯で活躍した遊牧民にあると考えられています。スキタイ、サルマタイ、フン、アヴァール、クマンといった民族が、馬の尾を飾りにしたものを軍旗や権力の象徴として使用していたと推測されています。

13世紀には、モンゴル人が「トゥグ」と呼ばれる同様の標章を使用しました。これは、モンゴル部族を率いる大将の権力の象徴であり、モンゴル帝国の成立とともに、チンギス・カンの権威を示す「テリーン・トゥグ」または「ツァガーン・トゥグ」と呼ばれる9本の大きなトゥグが登場しました。これらのトゥグは、三叉戟を頂点とし、布と黄金で作られた傘状の飾りを持ち、各竿の先端に馬の尾が取り付けられていました。平時にはカアン（皇帝）の天幕の前に置かれ、帝国の平和時（白い尾）と戦時中（黒い尾）の状態を示していました。

モンゴル帝国の分裂後も、各ハン国ではトゥグの使用が継続されました。クリミア・ハン国やオスマン帝国といったテュルク系国家も、これを権力の象徴として利用しました。クリミア・ハン国はチンギス・カンの後継者として8本のトゥグを使用し、オスマン帝国のスルタンは7本のトゥグを使用しました。これらの国々では、トゥグとともに軍旗も使用されました。

形式の変化と多様化

15世紀頃、クリミアのトゥグはブンチューク、オスマンのトゥグはクタスと呼ばれるようになり、形式にも変化が見られました。トゥグの数は馬の尾の数で表されるようになり、頂点の飾りは黄金の玉やイスラム教のシンボルである三日月に変わりました。馬の尾を取り付ける部分は布で覆われ、鮮やかな色彩で装飾されるようになりました。クリミア・ハンは8つの尾を持つブンチュークを、オスマン帝国のスルタンは7つの尾を持つクタスを使用しました。また、これらの国では、大臣や司令官などにもトゥグの所持が許可され、官位に応じて尾の数が制限される制度が確立されました。

ポーランド、ウクライナへの伝播

16世紀頃、ブンチュークの風習はクリミア・ハン国からウクライナを経由してリトアニア大公国とポーランド王国に伝わりました。ポーランドの最高司令官である大ポーランド・ヘトマンは2つの尾を持つブンチュークを使用し、戦場ヘトマンは1つの尾を持つブンチュークを使用しました。ポーランドでも、ブンチュークを管理する専門の官職が設けられました。

1576年、ポーランド国王ステファン・バートリは、当時ポーランドに従属していたウクライナ・コサックにブンチュークを下賜しました。これにより、コサックは国家の軍事力として公認され、ブンチュークはコサック軍の重要な標章となりました。コサックのブンチュークは、約3メートルの竿の先端に白い馬の尾を赤、黒、白の糸で編み、銀色の房とともに黄金の玉で固定した構造を持っていました。

17世紀以降、ブンチュークはウクライナ・コサックの首長であるヘーチマンの権力の象徴となり、その数も増加しました。ヘーチマンは、紅竿、黒竿、白竿の大ブンチュークと、任命ヘーチマン専用の小ブンチュークを所有していました。ブンチュークの管理と移動は、専門の役職であるブンチューク手官とその部下に委ねられていました。

ロシア、そして現代へ

18世紀以降、ウクライナ・コサックの影響で、ドン・コサックをはじめとするロシア・コサックでもアタマーンの標章としてブンチュークが使用されるようになりました。

20世紀に入ると、ブンチュークはほとんど使用されなくなりましたが、第二次世界大戦前のポーランド共和国の騎兵軍団では、軍旗とともに軍団の標章として短期間使用されました。

ブンチュークは、その起源から各国の変遷を経て、権威の象徴としての役割を終えましたが、歴史的な遺物としてその名を残しています。

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