プスコフの娘

『プスコフの娘』：リムスキー＝コルサコフ初期の傑作オペラ

『プスコフの娘』（ロシア語: Псковитянка）は、ニコライ・リムスキー＝コルサコフが1868年から1872年にかけて作曲した全3幕のオペラで、彼のオペラ作品としては最初期のものにあたります。1873年に初演されて以来、ロシアのオペラ史において重要な位置を占めています。

作品の背景

このオペラは、レフ・メイによる同名の戯曲を基にしており、1570年のイヴァン雷帝によるプスコフとノヴゴロドの反乱鎮圧という歴史的な出来事を背景としています。物語は、プスコフの代官トクマコフの養女であるオリガを中心に展開し、イヴァン雷帝との複雑な関係、そしてプスコフの人々の独立への思いが描かれています。

作曲の経緯

リムスキー＝コルサコフは、『アンタール』の作曲中にこのオペラの着想を得ました。当時、彼はムソルグスキーと共同生活を送っており、ムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』と本作は、互いに音楽的な影響を与え合っています。リブレットは作曲者自身が手がけ、原作の第1幕をカットし、民会の場面を第1幕の第2場に集約するなど、劇的な構成を追求しています。

作曲はダルゴムイシスキーの遺作『石の客』の完成作業によって一時中断されましたが、オーケストレーションは1871年秋に完了しました。しかし、当時の検閲制度により、ツァーリの登場が制限されていたため、上演には時間を要しました。海軍書記クラッベらの尽力により、例外として上演が許可され、1873年1月1日、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演され、大成功を収めました。

音楽的特徴

『プスコフの娘』は、ロシア5人組の急進的な思想を反映した、民族主義的かつリアリズム的な作品です。ダルゴムイシスキーの『石の客』の影響を受け、各幕はレチタティーヴォ的な歌唱が中心となっています。合唱が重要な役割を果たしており、特に第2幕の群衆のシーンは圧巻です。持続低音の上に不協和音が交替する様は『ボリス・ゴドゥノフ』との共通点です。グリンカの『皇帝に捧げた命』をモデルにした部分もありますが、オリガのアリアはリムスキー＝コルサコフの独創的な音楽で彩られています。

改訂の歴史

リムスキー＝コルサコフは、初期の作品を多く改訂したことで知られていますが、この作品も例外ではありません。1876年から1877年にかけて第2版が作られ、初版で省かれていた原作の第1幕をプロローグとして追加、多くのエピソードを追加し、オーケストレーションもやり直しましたが、評判は芳しくなく、作曲家自身も冗長であると認めました。その後、1891年から1892年にかけて再度改訂を行い、最終版である第3版では、元の3幕形式に戻されました。第2版で追加されたプロローグは、後に『貴族夫人ヴェーラ・シェローガ』として独立した作品になりました。そして、『ヴェーラ・シェローガ』をプロローグに含め、第3幕に新しいアリアを追加した版が1898年に作られ、1901年に上演されました。

上演史

1896年には、モスクワのソロドヴニコフ劇場で、サーヴァ・マモントフの私設歌劇団によって上演され、フョードル・シャリアピンが演じたイヴァン雷帝は大きな注目を集めました。その後、1901年にはボリショイ劇場、1903年にはマリインスキー劇場でも上演され、ロシア国外でも、1909年にパリのシャトレ座で、ディアギレフによって『イヴァン雷帝』の題で上演され、シャリアピンが再び雷帝を演じたことで、広く知られるようになりました。

1915年には、サイレント映画『イヴァン・ヴァシリエヴィチ雷帝』が制作され、シャリアピンが同じ役を演じましたが、音楽は使用されていません。1955年には、ボリショイ劇場の首席指揮者スヴェトラーノフが最初に上演した作品が『プスコフの娘』であり、1999年の最後の上演演目も同作品でした。2010年には、プスコフのモスクワ大公国への帰属500年を記念して、プスコフのクレムリでボリショイ劇場のメンバーによって上演されました。

登場人物

主要な登場人物は以下の通りです。

イヴァン雷帝（バス）：ロシアのツァーリ。
トクマコフ公（バス）：プスコフの代官。
オリガ（ソプラノ）：トクマコフ公の娘（実際には養女）。
ニキータ・マトゥータ（テノール）：貴族（ボヤール）。
* ミハイロ・トゥーチャ（テノール）：ポサードニクの息子。

あらすじ

第1幕：トクマコフ公の庭で、オリガとトゥーチャの恋が描かれます。ノヴゴロドの虐殺の噂が広がる中、民会が招集され、イヴァン雷帝の脅威が伝えられます。

第2幕：イヴァン雷帝がプスコフに到着し、トクマコフ公の家でオリガと出会います。雷帝はオリガがヴェーラ・シェローガの娘であることを知り、プスコフへの攻撃を中止します。

第3幕：オリガとトゥーチャはプスコフを去ろうとしますが、マトゥータによって阻止されます。イヴァン雷帝はオリガの父親であることが明かされますが、反乱軍との戦いの中でオリガは流れ弾に当たり命を落とします。イヴァン雷帝は娘の死を嘆き悲しみます。

『プスコフの娘』は、リムスキー＝コルサコフのオペラ作品の中でも、特に歴史的な背景と劇的な展開、そして力強い音楽が魅力の作品です。彼の初期の傑作として、今日でも多くの人々に愛されています。

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