ロシア5人組

ロシア5人組：民族主義音楽の先駆者たち

19世紀後半、ロシアにおいて独自の音楽を創造しようとした作曲家集団「ロシア5人組」は、ミリイ・バラキレフを中心に、ツェーザリ・キュイ、モデスト・ムソルグスキー、アレクサンドル・ボロディン、ニコライ・リムスキー＝コルサコフの5人によって構成されました。

彼らは、西欧の音楽様式からの脱却を目指し、ロシアの民族音楽や歴史、文化を題材とした作品を数多く生み出しました。その活動は、ロシア音楽の発展に大きな影響を与えただけでなく、後世の作曲家たちにも刺激を与え、20世紀の音楽にもその影響が見られます。

結成の背景と理念

ロシア5人組は、ロシア語で「Могу́чая ку́чка（マグーチャヤ・クーチカ）」と呼ばれます。これは、「強力な集団」を意味し、1867年に芸術評論家のウラディーミル・スターソフによって命名されました。彼らの共通理念は、反西欧、反プロフェッショナリズム、反アカデミズムでした。これは、当時のロシア音楽界が西欧の音楽様式に強く影響されていた状況に対する反発であり、ロシア独自の音楽を創造しようとする強い意志の表れでした。

彼らは、グリンカやダルゴムイシスキーといった先駆者たちの業績を受け継ぎ、ロシア的な題材を用いて歌劇や管弦楽作品を作曲しました。また、スターソフは、ロシアの民族的な要素を重視し、教会旋法や民謡、民話を作品に取り入れることを推奨しました。

メンバーの個性と活動

ミリイ・バラキレフ（1837-1910）： グループの指導者であり、ピアノの名手。作曲よりも指導に力を注ぎ、メンバーの作品を助けました。しかし、彼の作品の完成には長い時間を要しました。
ツェーザリ・キュイ（1835-1918）： 軍人でありながら作曲家としても活動。オペラ作曲を試みましたが、叙情的ながらも伝統的な語法に偏り、個性的な作品は多くありませんでした。
モデスト・ムソルグスキー（1839-1881）： 最も独創的で、5人組の理念に忠実な作曲家。オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』など、人間の内面を描いた作品が特徴です。しかし、多くの作品を未完成のままにしました。
アレクサンドル・ボロディン（1833-1887）： 本職は化学者でしたが、作曲家としても才能を発揮。交響曲や弦楽四重奏曲など、力強く壮大な作品が特徴です。代表作にオペラ『イーゴリ公』がありますが、未完に終わっています。
ニコライ・リムスキー＝コルサコフ（1844-1908）： 5人組の中で最も若い世代であり、管弦楽法の大家。交響詩『サトコ』や『シェヘラザード』など、色彩豊かで華麗な作品を多く残しました。また、音楽院で教鞭をとり、後進の指導にも尽力しました。

5人組の活動は、1870年前後が最盛期でしたが、その後、バラキレフの活動停滞やメンバーの死去により、徐々に衰退していきました。しかし、彼らの作品は、現在でも多くの人々に愛され、演奏されています。

影響と遺産

ロシア5人組の音楽は、その民族的な色彩と革新的な手法によって、後世の作曲家たちに大きな影響を与えました。特に、ドビュッシーはムソルグスキーを、ラヴェルとフローラン・シュミットはバラキレフを熱愛しました。また、レスピーギはリムスキー＝コルサコフに師事しています。

さらに、彼らの反アカデミズムの姿勢は、20世紀の音楽における革新的な動きにもつながりました。また、リムスキー＝コルサコフの弟子たちは、ソ連の音楽界に大きな影響を与え、彼の音楽理論は、ソ連の音楽教育の基礎となりました。

フランスの作曲家グループである「フランス6人組」は、ロシア5人組にちなんで命名されました。

まとめ

ロシア5人組は、19世紀後半のロシア音楽界において、民族主義的な音楽運動の先駆者として重要な役割を果たしました。彼らの作品は、現在でも多くの人々に愛され、演奏されています。その音楽は、ロシアの文化を世界に伝える上で、重要な役割を担っています。

参考文献

Walsh, Stephen (2013). Musorgsky and His Circle: A Russian Musical Adventure. New York: Alfred A. Knopf. ISBN 9780385353854

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