プラハ条約 (1635年)

プラハ条約：三十年戦争における転換点と挫折

プラハ条約は、三十年戦争の過程において、1635年5月30日に神聖ローマ皇帝フェルディナント2世がボヘミアのプラハで締結した和平条約です。この条約は、皇帝とプロテスタント連合軍を率いてきたベルンハルト・フォン・ザクセン＝ヴァイマル、そしてドイツの諸侯たちとの間で交わされました。

条約締結までの経緯

皇帝軍は、当初ボヘミアの反乱を鎮圧し、デンマーク戦争でも優位に立ちましたが、スウェーデン王グスタフ2世アドルフの侵攻によって一転して苦境に立たされます。フェルディナント2世は、かつて罷免したヴァレンシュタインを復帰させ、事態の収拾を図りました。ヴァレンシュタインは1632年のリュッツェンの戦いでグスタフ2世アドルフを討ち取るものの敗走し、2年後に暗殺されます。

1633年には、スウェーデンの宰相アクセル・オクセンシェルナの尽力により、プロテスタント諸侯とスウェーデンとの間でハイルブロン同盟が結ばれます。しかし、その年のネルトリンゲンの戦いで皇帝軍はスウェーデン・プロテスタント諸侯軍を打ち破り、三十年戦争の主導権を一時的に掌握します。プロテスタント諸侯軍は窮地に陥り、スウェーデンに協力していたザクセン選帝侯ヨハン・ゲオルク1世とブランデンブルク選帝侯ゲオルク・ヴィルヘルムは皇帝側に離反。ベルンハルトもスウェーデンとの決別を決意しました。

フェルディナント2世はこの機を逃さず、ベルンハルトやヨハン・ゲオルク1世らを懐柔し、1635年5月30日にプラハ条約を締結するに至ります。この条約において、フェルディナント2世は1629年に発布したプロテスタントの権利を圧迫する「復旧令」を取り下げ、プロテスタント諸侯もカトリック諸侯と同様に所領と権利を有することを認めました。しかし、諸侯の同盟は禁止されたため、諸侯は皇帝の下に結集することになり、これは束の間のフェルディナント2世の勝利を意味しました。

条約の批准と限界

プラハ条約はドイツの各諸侯の署名によって批准される予定でしたが、カトリック諸侯側の主力であったバイエルン選帝侯マクシミリアン1世は自軍の権力放棄を拒否し、署名を拒みました。皇帝はやむを得ずマクシミリアン1世に大幅に譲歩し、選帝侯位の保障と娘マリア・アンナを嫁がせることで合意を得て、カトリック連盟を解散させました。マクシミリアン1世の署名は、新旧問わずドイツ諸侯の相次ぐ署名につながりました。しかし、スウェーデン、ヘッセン＝カッセル方伯ヴィルヘルム5世、ブラウンシュヴァイク＝リューネブルク公、プファルツ伯カール・ルートヴィヒらは条約への署名を拒否しました。

1636年には、レーゲンスブルク選帝侯会議でフェルディナント2世の息子フェルディナント（後のフェルディナント3世）がローマ王に選出され、ハプスブルク家の権威は絶頂を迎えたかに見えました。しかし、戦争は終結せず、フェルディナント2世が示した和平はドイツ国内限定の効果にとどまりました。スペインはオランダとの八十年戦争を継続しており、ヨーロッパ全体の和平には至りませんでした。

条約の破綻とその後

プラハ条約によって窮地に追い込まれたスウェーデンは、帝国諸侯の裏切りによりポンメルンに押し込められました。しかし、スウェーデン宰相オクセンシェルナはフランスと同盟を結び、さらにオランダとも連携し、反撃の機会を窺います。フランス宰相リシュリューはついに直接介入を決意し、ベルンハルトもハイルブロン同盟の指揮官に復帰したことで、プラハ条約は破綻しました。

1637年、フェルディナント2世は失意のうちに死去し、フランスの参戦によって三十年戦争は泥沼化し、ドイツの荒廃は一層深刻化しました。プラハ条約は、一時的に和平への希望をもたらしたものの、ヨーロッパ全体を巻き込む戦乱を止めることはできず、その後の国際秩序に大きな影響を与えることとなったのです。

参考文献
菊池良生『戦うハプスブルク家 - 近代の序章としての三十年戦争』講談社〈講談社現代新書 1282〉、1995年
シセリー・ヴェロニカ・ウェッジウッド『ドイツ三十年戦争』瀬原義生訳、刀水書房、2003年

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