プリヤ・カーン

プリヤ・カーンは、カンボジアの古都アンコールに位置する、仏教とヒンドゥー教の要素が融合した寺院です。その名は「聖なる剣」を意味し、かつて境内で発見された剣に由来します。アンコール・トムの北東に位置し、広大な敷地と歴史的な背景を持つ場所です。

歴史

この地はかつてヤショヴァルマン2世の王宮があった場所で、後にジャヤーヴァルマン7世が寺院を建立しました。ジャヤーヴァルマン7世は、王宮を支配していたチャンパ王国のジャヤ・インドラヴァルマン4世を討ち、その跡地に自身の父を模した観世音菩薩像を1191年に安置しました。かつて寺院には千人以上の僧侶が住み、彼らを支える広大な荘園には97,840人が暮らしていたとされています。寺院内では、ヒンドゥー教の神々や現地の精霊も祀られていましたが、後にヒンドゥー教を信仰するジャヤーヴァルマン8世によって仏像が破壊されました。現在では、カンボジアの国教である仏教の僧侶が境内で祈祷を行っています。

寺院は、長年の間に溶樹の繁殖や彫像の盗難などによって大きな損傷を受けており、現在も修復作業が進められています。しかし、カンボジアの安定に伴い、多くの観光客が訪れる人気のスポットとなっています。なお、寺院の名前の由来となった「聖なる剣」は、現在はプノンペンの国立博物館に収蔵されています。

伽藍

プリヤ・カーンは、アンコール・トムの北大門から北東へ約1.5km進んだ場所に位置しています。寺院はラテライトと砂岩を用いて建設されており、東西800m、南北700mの広さを持つ環濠で囲まれた平面構造をしています。環濠に架かる橋は、アンコールの他の遺跡と同様に、乳海攪拌の様子を彫った欄干で飾られており、大蛇を引く神々と阿修羅の姿を見ることができます。

本殿は三重の周壁に囲まれており、東西南北に参道があります。しかし、南北の参道は崩壊しており、現在は通行できません。かつて周壁には塔門がありましたが、これも崩れ落ちています。周壁の門は、本殿に近づくにつれて間口と高さが狭くなるように設計されており、遠近法を利用して寺院をより広く見せる工夫が凝らされています。

参拝は東側の参道から行われ、参道の途中には観世音菩薩像やヒンドゥー教のリンガが刻まれた壁面が見られます。参道を進み中庭に出ると、大蛇の欄干で縁取られたテラスがあります。また、中庭の南側にはアンコール遺跡では珍しい円柱を持つ二階建ての経蔵が残っています。

プリヤ・カーンは、その歴史と建築様式から、アンコール遺跡の中でも特に魅力的な場所の一つです。仏教とヒンドゥー教の融合を体現しており、訪れる人々に深い感動を与え続けています。

参考資料

石澤良昭『アンコール・王たちの物語』日本放送出版協会
『ベトナム・アンコールワット』JTBパブリッシング

関連項目

* アンコール遺跡

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