プレスリップ

プレスリップ（前兆すべり）とは

プレスリップ（pre-slip）とは、大きな地震が発生する際に、震源となる断層の破壊を誘導する微小な割れ目（破壊核）を形成する地震のことです。前兆すべりとも呼ばれます。本震の前兆現象の一つとして知られていますが、地震発生のメカニズムに着目する点で、前震とは区別されます。

アスペリティの形成とプレスリップの関係

地殻内では、岩盤が周囲からの強い圧力によって、多数の微小な割れ目（クラック）が形成されます。通常、この圧力はある時点で解放され、割れ目に沿って岩盤がずれ動き、地震が発生します。しかし、この「本破壊」と呼ばれる現象が起こるためには、アスペリティ（固着域）と呼ばれる特別な領域の形成が必要となります。

アスペリティとは、岩盤内に存在する無数の割れ目の中で、両側が強くくっつき、摩擦力によって動きが制限されている部分です。アスペリティは時間の経過とともに成長し、固着する面積と強度を増していきます。しかし、アスペリティの固着力にも限界があり、限界を超えるとずれが発生します。

岩盤内には大小さまざまなアスペリティが存在し、小さいアスペリティから順番にずれ動きます。この小さなアスペリティがずれる際にも小さな地震が発生します。そして、ずれ終えたアスペリティは、また新たな面でくっつき、新たなアスペリティを形成します。このように、岩盤はある程度の耐力を持ち、耐えている間は定期的にずれ動いています。

しかし、大きなアスペリティの固着力にも限界があります。ある程度大きなアスペリティが滑り始めると、それをきっかけに周囲のアスペリティも連鎖的に動き出します。これが大規模に発生すると、大地震、つまり「本破壊」となるのです。

プレスリップとは、「本破壊」に先駆けて発生する、ある程度の大きさを持ったすべりのことです。つまり、プレスリップが発生しなければ、小規模な破壊にとどまり、「本破壊」は発生しないと考えられています。このような考え方をプレスリップモデルと呼びます。

プレスリップの観測と予知

プレスリップは、地震動を伴う場合と、伴わない地殻変動のみの場合があります。そのため、プレスリップは厳密には「地殻変動」と捉えられます。地震動を伴う場合はマグニチュード（M）で規模を評価できますが、地殻変動のみの場合は、変位量を経験式から規模に換算して評価します。

過去の観測や推定データから、M8級の地震では、プレスリップの規模はM6級相当になると推定されています。東海地震の予知では、このM6級相当のプレスリップの観測を目標としています。

東海地震の場合、M6級相当のプレスリップが観測網の感知範囲内で発生すれば、予知が可能であると考えられています。しかし、プレスリップが感知範囲外で発生した場合や、小規模なプレスリップの後に本震が発生した場合には、予知は困難になります。また、プレスリップに似た変動が発生しても、それが定常的なすべりであり、本震に繋がらない場合もあります。

東海地震においては、以下の3つの基準を満たす変動をプレスリップと判断します。

1. 地殻変動の一定期間の変化量が、プレート境界に位置する低角逆断層で説明可能であること。
2. 複数の観測点の変化が同期しており、時間変化のパターンが同一とみなせること。
3. 時間的な変化に加速的な傾向が認められること。

これらの基準に基づいて、観測された変化がプレスリップであると判断されれば、東海地震に関連する情報が発表されます。

まとめ

プレスリップは、大地震発生のメカニズムを理解する上で重要な現象であり、地震予知の可能性を秘めた研究分野です。今後の観測技術の発展や、解析の進歩によって、より正確な地震予知に繋がる事が期待されます。

参考資料

FAQ・東海地震 日本地震学会
地震と活断層 - 16, 17, 18 坂口有人
用語集 地震 - ウェイバックマシン（2006年7月21日アーカイブ分） 地震・防災 あなたとあなたの家族を守るために
東海地震の予知について 気象庁

関連項目

スロースリップ
アフタースリップ
東海地震に関連する情報

外部リンク

吉田真吾、加藤尚之、「前駆すべりと地震の最終的サイズとの関係」 『地震 第2輯』 2005年 58巻 3号 p.231-246, doi:10.4294/zisin1948.58.3_231, 日本地震学会

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