プレー山

プレー山：1902年の大噴火とマルティニーク島の悲劇

マルティニーク島北端にそびえるプレー山は、標高1397メートルの活火山です。フランス語で「はげ山」を意味するその名は、噴火による荒々しい山容を的確に表しています。カリブ海プレートと南アメリカプレートの沈み込み帯に位置するマルティニーク島は、プレー山を含む複数の活火山が存在する地域です。

穏やかな始まりと、予兆

1792年と1851年には小規模な噴火が記録されていますが、ヨーロッパ人が島に到来した1635年以降、本格的な噴火活動は1902年まで静穏を保っていました。しかし、1901年には既に登山者による噴気活動の目撃報告があり、潜在的な危険性を示唆していました。

噴火の開始とサン・ピエールの悲劇

1902年4月25日、プレー山は噴火を開始。4月27日には山頂に火口湖が出現、その後は断続的に噴火を繰り返し、火山灰や火山ガス、土石流が周辺地域に被害をもたらしました。特にサン・ピエール市は、火山活動の影響を直接的に受けることとなります。

5月8日、主の昇天の祭日。人々は普段どおり生活し、噴火を眺める者もいました。しかし、午前7時52分、突如として大規模な噴火が発生しました。それは、従来の噴火とは全く異なる様相を呈していました。

プレー山から発生したのは、高温の火砕流。時速150～200キロメートル、摂氏1000度ともいわれる猛烈な熱流は、サン・ピエール市を瞬く間に飲み込みました。建物を破壊し、火災を引き起こし、港に停泊していた船舶の大半を沈没させました。この熱雲は、火砕流の中でも密度が小さく流動性の大きい部分であり、サン・ピエール市を直撃したことが、甚大な被害を招いた要因と考えられています。

人災の側面と犠牲者

この災害は、自然現象のみならず、人為的な要因も大きく影響しました。当時、フランス国民議会選挙の真っ最中だったことから、当局は火山活動の危険性を過小評価、または無視しました。選挙を優先して、住民の避難を妨げたことは、犠牲者数を大きく増加させた要因のひとつです。サン・ピエール市の住民と避難民を合わせて、2万4000人から4万人とも言われる犠牲者が出ました。その中には、滞在中の画家やマルティニーク知事夫妻も含まれていました。奇跡的に生き残ったのは僅か3名のみでした。

噴火後のプレー山とサン・ピエール

5月8日の大噴火後も、プレー山の活動は続きました。5月20日、8月30日にも火砕流が発生し、さらなる被害をもたらしました。10月には、高さ300メートルにも達する溶岩塔が形成され、「プレーの塔」と呼ばれました。この塔は1903年3月に崩壊、その後も断続的に噴火は続きましたが、1904年にはようやく終息しました。1929年には再び噴火し、新たな溶岩塔が形成されました。

サン・ピエール市はその後復興を試みましたが、県庁所在地はフォール・ド・フランスに移転。かつての賑わいを取り戻すことはありませんでした。現在も、噴火当時の廃墟が残り、災害の爪痕を伝えています。

プレー式噴火と世界遺産登録

プレー山のように、火砕流を一方向に噴出する噴火様式は「プレー式噴火」と呼ばれています。そのメカニズムについては、様々な研究がなされています。

プレー山とその周辺地域は、2023年にユネスコの世界遺産に登録されました。地球の歴史を示す顕著な見本であり、固有種を含む生物多様性の保全にとって重要な地域であることが評価されました。

参考文献

国立天文台 編『理科年表 平成20年』丸善、2007年
金子史朗『世界の大災害』三省堂新書、1974年
* ジェームズ・コーネル『世界の大災害』本蔵義守訳　講談社　1977年

プレー山の噴火は、自然の脅威と人為的要因が複雑に絡み合った大災害でした。その教訓は、現代においても防災意識を高める上で重要な意味を持っています。

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