プログレスMS-10

プログレスMS-10は、ロシア連邦宇宙局ロスコスモスによって開発・運用された国際宇宙ステーション（ISS）向けの無人宇宙補給船です。ロシア国内での製造番号は440と付与されており、NASAではプログレス71Pという識別名称で呼ばれました。プログレス補給船としては通算162機目にあたるミッションとして位置づけられています。

プログレスMSシリーズの特徴

プログレスMSシリーズは、先行して運用されていたプログレスM型補給船を基盤とし、その設計や機能を大幅に改良・強化した無人輸送機のバリエーションです。この改良型は2015年12月21日に初めて宇宙へと打ち上げられました。主な強化点は多岐にわたります。

人工衛星展開機能の追加: 軌道上で小型人工衛星などを展開するための新たな外部コンパートメントが設けられました。このコンパートメントには、最大で4基の発射コンテナーを搭載する能力があります。
冗長性の向上: ドッキング機構や船体密閉機構を駆動する電気モーターにおいて、予備システムを追加することで冗長性を高め、システムの信頼性が向上しています。
微小隕石防護の強化: 貨物コンパートメントのパネルを追加・改良することで、宇宙空間における微小なデブリや隕石の衝突に対する防護能力が強化されました。
通信能力の拡張: ロシアのルーチ中継衛星とのデータリンク機能が追加されたことで、地上局の追跡範囲外にいる間でも、テレメトリーデータの送信やコマンドによる制御が可能になりました。
自律航法能力: 地上局からの軌道決定支援を必要とせずに、GNSS（全球測位衛星システム）を活用して機体自身の状況ベクトルや正確な軌道パラメーターを決定できる自律航法機能が備わりました。
直接無線データ交換: 宇宙ステーションとの間で直接無線データ交換を行う機能により、リアルタイムでの相対的な位置情報や航法データの共有が可能になりました。
デジタル無線システムの刷新: ドッキング操作時のTV映像視野を改善するため、新しいデジタル無線システムが導入されました。
主要システムの近代化: ウクライナ製のChezara Kvant-V無線システムおよびアンテナ・フィーダー・システムが、統合コマンド・テレメトリー・システム（UCTS）に置き換えられました。また、ドッキング誘導システムであるクルスAも、より高性能なデジタルシステムであるクルスNAに更新されました。

打ち上げ前の経緯

プログレスMS-10の打ち上げ計画は、当初2018年2月22日を予定していましたが、ミッションのスケジュールの都合により、2017年の段階で2018年8月へと変更されました。その後、2018年6月には打ち上げ日が2018年10月31日に割り当て直されました。しかし、2018年10月11日に発生したソユーズMS-10有人宇宙船の打ち上げ失敗事故の影響を受け、安全確認や調査のために打ち上げはさらに延期され、最終的に2018年11月16日へと設定されました。

打ち上げ

最終的に決定されたスケジュールに基づき、プログレスMS-10はカザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から、ソユーズFGロケットに搭載されて宇宙へ旅立ちました。打ち上げは、協定世界時（UTC）で2018年11月16日の18時14分08秒に成功裏に行われました。

ISSとのドッキング

宇宙への打ち上げ後、プログレスMS-10は予定されていた軌道を経て国際宇宙ステーションへと接近しました。そして、協定世界時（UTC）2018年11月18日19時31分38秒に、ISSのロシア区画にあるズヴェズダ・サービスモジュールへのドッキングを無事に完了させました。

輸送貨物

ISSに到着したプログレスMS-10補給船は、宇宙飛行士の活動やステーションの運用に必要な様々な物資、総計2,564キログラムを届けました。輸送された貨物の内訳は以下の通りです。

与圧貨物: 1,330キログラム
燃料: 750キログラム
酸素と空気: 75キログラム
水: 440キログラム

これらの物資は、ISSに長期滞在するクルーの生活維持や科学実験、ステーションのメンテナンスなどに活用されました。

ドッキング解除とミッション終了

ISSでの補給ミッションを終えたプログレスMS-10は、約半年間にわたるステーションとの結合状態を解除しました。ドッキング解除は協定世界時（UTC）2019年6月4日の08時40分に行われました。ISSから離脱したプログレスMS-10は、その後の軌道離脱操作を経て、同日11時28分（UTC）に地球大気圏へ再突入し、太平洋上の安全なエリアで燃え尽きました。これにより、プログレスMS-10によるISS補給ミッションは終了しました。

もう一度検索