プログレスMS-17

プログレスMS-17（ロシア製造番号466、NASA呼称プログレス78P）は、国際宇宙ステーション（ISS）への重要な物資輸送を目的としてロシアのロスコスモスが運用した無人補給船です。これはプログレス宇宙機シリーズ全体の通算169回目の飛行に当たります。

プログレスMS型の特徴

プログレスMSは、従来のプログレスM型を基に、航法システムをはじめとする様々な機能が強化された改良型です。このバージョンは2015年12月に初めて運用が開始されました。MS型には、以下のような改良が施されています。

人工衛星を展開するための新しい外部コンパートメントが追加され、それぞれ最大4個の発射コンテナを搭載可能となりました。これはプログレスMS-03で初めて導入された機能です。
ドッキング機構や密閉機構を制御する電気モーターの予備システムが追加され、システムの冗長性が向上しました。
貨物コンパートメントのパネルが強化され、微小隕石に対する防御性能が高められました。
ロシアのルーチ中継衛星との通信機能により、地上局からの直接的な可視範囲外でもテレメトリーデータの送信や機体の制御が可能になりました。
全地球測位システム（GNSS）を利用した自律航法能力が備わり、地上局による軌道決定に頼ることなく、機体自身の位置や軌道パラメータを正確に把握できるようになりました。
宇宙ステーションとの直接無線データ交換機能を通じて、リアルタイムでの相対的な位置情報を把握し、精密な接近・ドッキング操作が可能となりました。
ドッキング操作時の視認性を高めるため、新しいデジタル無線システムが導入され、鮮明なテレビ映像を提供できるようになりました。
従来のChezara Kvant-V無線システムやアンテナ・フィーダーシステムが、統合コマンド・テレメトリー・システム（UCTS）によって置き換えられました。
* クルスAシステムが、より高性能なクルスNAデジタルシステムに変更されました。

打ち上げと初期運用

プログレスMS-17を搭載したソユーズ2.1aロケットは、2021年6月29日にカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地の31番射点から宇宙へと旅立ちました。打ち上げから数日後の2021年7月2日、本機はISSのロシア軌道セグメント（ROS）に無事自動ドッキングしました。当初はナウカ・モジュールの天底側（地球側）ポートに接続されました。

映画撮影プロジェクトとの関わり

プログレスMS-17は、史上初の軌道上での長編映画撮影プロジェクト「Vyzov（挑戦）」に関連する機材をISSに届けました。この映画プロジェクトは、ロスコスモス、ロシアのチャンネル1、そしてイエロー・ブラック・アンド・ホワイトスタジオの合弁事業として進められました。女優のユリア・ペレシルド氏と監督のクリム・シペンコ氏は、別のソユーズ宇宙船（ソユーズMS-19）でISSに到着し、宇宙飛行士のアントン・シュカプレロフ氏らが参加する形でISS船内での撮影を行いました。撮影クルーはISS滞在後、オレッグ・ノヴィツキー氏と共にソユーズMS-18で地球へ帰還しました。

しかし、この映画撮影プロジェクトは科学・航空宇宙コミュニティから賛否両論を巻き起こしました。ロスコスモス長官はこれを「実験」と位置づけましたが、訓練されたプロの宇宙飛行士がISSでの長期滞在から外されたことや、公共資金の利用、さらには非科学的な目的でのISSリソース使用の正当性について批判的な意見が出されました。ロシアの検事総長による調査が開始されたほか、ロスコスモスの有人飛行部門責任者が一時的に職を解かれるといった出来事も発生しました。

ISSロシアセグメントの構成変更と再配置

プログレスMS-17は、ISSのロシア軌道セグメント（ROS）拡張計画においても重要な役割を担いました。ズヴェズダ・サービス・モジュールの空気漏れ問題などもあり、当初のドッキング計画に変更が生じた可能性が示唆されましたが、本機は最終的にナウカ・モジュールへの再接続が求められました。2021年10月20日に最初のドッキングポートから分離した後、プログレス宇宙船の軌道特性を考慮した約29時間の自動飛行を経て、10月22日にナウカの天底側ポートに再びドッキングしました。

この時間のかかる再配置は、プログレス補給船が迅速な定期的な移動に適さない設計であることに由来します。機体が目的のポート軸に沿った狭い「円錐形」の安全ゾーンに入る必要があるため、一旦ステーションから離れて自然に再び接近する軌道をとる必要がありました。この方式は燃料消費を抑える利点がありますが、位置決定にはGLONASSやGPS、そして最終接近にはKu-NAシステムといった航法システムへの依存が不可欠です。

ROS拡張への貢献と任務完了

ナウカ・モジュールへの再ドッキングは、次に到着するプリチャル・モジュールを接続するための準備でした。プリチャル（プログレスM-UMによって運ばれる）の打ち上げに先立ち、プログレスMS-17は、ナウカの天底側ポートに接続されていたドッキングアダプターと共にISSから分離し、大気圏に再突入して南太平洋上で破壊される予定でした。このアダプターをプログレスMS-17と共に廃棄することで、プリチャル接続後に、より広いアクセス通路を確保することが可能となります。約179日間の任務期間を通じて、プログレスMS-17は合計で2493kg（与圧貨物1509kg、燃料470kg、酸素40.5kg、水420kgを含む）の物資をISSに輸送しました。

プログレスMS-17は、単なる補給任務だけでなく、改良型プログレス宇宙機の能力実証、画期的な宇宙映画プロジェクトの支援、そしてISSロシアセグメントの重要な物理的拡張準備という、多岐にわたる役割を果たし、その任務を終えました。

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