ヘイミッシュ・マッカン

ヘイミッシュ・マッカン（1868年 - 1916年）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活動した、スコットランドを代表する作曲家、指揮者、そして教育者です。彼の音楽は、故郷スコットランドの豊かな民謡や美しい自然景観からインスピレーションを得た、独特の抒情性と力強さを特徴としています。生涯を通じてスコットランドへの深い愛情を失うことなく、その音楽文化の振興に力を尽くしました。

マッカンは、本名をジェームズ・マッカンとして、1868年3月22日にスコットランドの港町グリーノックに生まれました。父親は船舶業を営んでいました。幼い頃から音楽の才能を示し、1883年には奨学金を得てロンドンへと向かい、新設された王立音楽大学に入学します。ここでは、当時のイギリス音楽界を牽引していたヒューバート・パリーやチャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードといった名教師たちに師事し、作曲や音楽理論を深く学びました。

学生時代からその才能は頭角を現し、特に1887年にロンドンの水晶宮で初演された管弦楽のための序曲『山と湖の国』作品3は、聴衆と評論家双方から絶賛され、若きマッカンに一躍名声をもたらしました。この成功を機に、彼の名は広く知られるようになり、以降の作品もまた、スコットランドの題材や旋律を積極的に取り入れたものが多く見られます。

マッカンは教育者としても貢献しました。1888年から1894年にかけて、母校である王立音楽大学で作曲の教授を務めました。この時期には、作曲家・指揮者のマーマデューク・バートンと深い友情を育み、芸術的な協力関係を結んでいます。

私生活においては、1888年に著名な肖像画家ジョン・ペティの娘、アリソン・ペティと結婚しました。義父のジョン・ペティは音楽にも造詣が深く、マッカンが自身の作品を発表するための演奏会企画など、キャリア形成において多大な支援を行いました。夫妻の間には一人の息子が生まれました。

義父ペティの支援も後押しとなり、マッカンは著名なオペラ興行主であるカール・ローザから、スコットランドを題材としたオペラの作曲を委嘱されるという重要な機会を得ます。こうして生まれた彼の最初のオペラ『Jeanie Deans』は、1894年11月15日にエディンバラの王立ライシーアム劇場で、マッカン自身の指揮により初演され、成功を収めました。続く2作目のオペラ『Diarmid』作品34は、ロイヤル・オペラ・ハウス（コヴェント・ガーデン）で1897年10月23日に初演されています。

オペラ作曲に加え、マッカンは指揮者としても精力的に活動しました。特にカール・ローザ・オペラ・カンパニーをはじめとする歌劇団で指揮台に立ち、多忙な日々を送りました。作曲、指揮、そして教育という三つの柱での活動は、彼の才能を示す一方で、次第に健康を蝕んでいきました。残念ながら、ヘイミッシュ・マッカンは1916年8月2日、わずか48歳という若さでこの世を去りました。

彼の残した作品は多岐にわたります。主要なものとしては、

管弦楽曲: 成功作『山と湖の国』の他、『Cior Mhor』といった序曲、『The Ship o’ the Fiend』や『The Dowie Dens o’ Yarrow』のようなバラード、そして組曲『Highland Memories』などがあります。これらはスコットランドの風景や伝説を音で描いています。
声楽曲: 多数のカンタータを作曲しており、『Lord Ullin's Daughter』、『Bonny Kilmeny』、『The Lay of the Last Minstrel』、『The Cameronian's Dream』など、物語性豊かな作品が多いのが特徴です。また、詩篇や大規模な合唱・管弦楽曲も手掛けています。
* オペラ: 前述の『Jeanie Deans』や『Diarmid』の他、ライトオペラ『The Golden Girl』などがあります。未完に終わった作品もいくつか存在します。

ヘイミッシュ・マッカンは、短い生涯ながらも、スコットランドの音楽的遺産を深く愛し、それを自身の創造活動の中心に据えた作曲家でした。彼の作品は、スコットランド音楽の伝統と、ロンドンで受けた専門的な音楽教育が融合したものであり、今日でもスコットランド音楽史において重要な位置を占めています。故郷への情熱を音楽に込め続けた彼の功績は、今なお語り継がれています。

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