ヘンリー・ジェニングス

ヘンリー・ジェニングス（Henry Jennings、1745年没?）は、18世紀初頭の海賊黄金時代に活動したイギリス出身の海賊です。ニュープロビデンス島（現在のバハマ）を拠点とした、いわゆる「海賊共和国」において、ベンジャミン・ホーニゴールドらと並び指導的な地位を占めた人物として知られています。

略歴

ジェニングスの生い立ちに関する詳細は不明瞭ですが、ジャマイカに土地を持つ比較的裕福な家柄の出であり、相応の教育を受けていたと伝えられています。彼は海賊となる以前、スペイン継承戦争（1701年-1714年）の期間中にイギリスの私掠船を指揮した経験を持っていました。

海賊行為のきっかけは、当時のジャマイカ総督アーチボルト・ハミルトンの指示によるものでした。ジャコバイト（ステュアート家支持者）であったハミルトンは、自らの政治的野心のため、ジェームズ・ステュアートを支援する「民間の艦隊」を形成しようと私掠船船長たちを集めていました。ジェニングスは、その艦隊の一隻であるベルシェバ号の船長を務めていました。

1715年、スペインの船団がハバナから出帆した直後、フロリダ湾でハリケーンに遭遇し、12隻のガレオン船が沈没するという大惨事が発生しました。これらの沈没船には、総額1400万ペソにも及ぶ大量の銀貨（ピース・オブ・エイト）が積まれており、ハバナ総督は直ちに財宝回収作業を開始しました。この情報を得たハミルトン総督は、ジェニングスに沈没船からの財宝略奪を命じました。

ジェニングスは2隻の大型船と3隻のスループ船、約300人の船員を率いて難破現場へ急行しました。現場ではスペインの守備隊が回収された銀貨の警備にあたっていましたが、ジェニングス一団の突然の攻撃に圧倒され、パニックに陥りました。守備隊は森の中へ逃走し、銀貨35万枚を含む大量の財宝がジェニングスらの手に渡りました。この略奪には、後に悪名高い海賊となるチャールズ・ヴェインも加わっていたとされています。

この略奪の後、ジェニングス一団はポルトベロからハバナへ向かっていたスペイン船を襲撃し、さらに6万ペソ以上の積荷を奪いました。彼らは戦利品を持ってジャマイカへ帰還しましたが、襲撃されたスペイン側がハバナ総督を通じてジャマイカ総督に苦情を申し立て、略奪品の返還を要求しました。当時、イギリスとスペインは平和条約を結んでおり、国際的な問題に発展することを恐れたジェニングスらは、処罰を避けるために再び海へ逃れることになりました。

ジャマイカを離れたジェニングス一味は、スペイン船のみならずあらゆる国籍の船舶を無差別に攻撃し、拿捕するようになりました。また、スペイン軍に襲われた後に解放されたログウッド採集船の乗組員たちを仲間に加え、勢力を拡大しました。強大化した彼らは安全な隠れ場所を探し始め、最終的にプロビデンス島が新たな拠点として選ばれました。

1716年にジェニングスがプロビデンス島のナッソーに到着した時、町は既にベンジャミン・ホーニゴールドを中心とした海賊たちの巣窟となっていました。しかし、ジャマイカ総督の支援を受けていたジェニングスは、ホーニゴールドのような「卑しい」海賊たちを見下し、公式な私掠免許を持たない彼らの行為を「海賊行為」と見なしました。ジェニングスはホーニゴールドらが奪った船などを接収し、一部をジャマイカのハミルトン総督に納めました。

その後、ジェニングスはハミルトンの他の部下たち（リー・アシュワース、サミュエル・リデル、ジェームズ・カーネギー）を加えて、再びスペインの財宝を狙った航海に出ます。バイーヤ・ホンダへ向かう途中、彼らはフランス籍の大型フリゲート艦サンマリー号を捕捉しました。リデル船長はこの攻撃が非合法な海賊行為であるとして参加を拒否しましたが、そこにサミュエル・ベラミーとポールスグレイブ・ウィリアムズが加わったことで襲撃が決行され、サンマリー号は拿捕されました。

翌朝、ジェニングスは捕虜にしたフランス人乗組員に対し、「ひどく残忍な」とされる拷問を用いて、難破船から奪われた3万枚のスペイン銀貨の隠し場所を白状させたと伝えられています。この結果、彼は33,000ポンド相当の財宝を手に入れました。さらに、ジェニングスはサンマリー号の船長を脅迫し、これらの略奪行為が合法的な私掠であると証明する書状をハミルトン総督宛に書かせました。

戦利品を船に移している最中、海賊たちは近くのマリエル港にフランス商船マリアンヌ号が停泊していることを知り、ディスカバリー号とベラミーの船が捕獲に向かいました。一方、リデル船長は海賊行為への嫌悪からジェニングスの一団を離脱しました。マリアンヌ号の捕獲に成功した一団でしたが、そこにホーニゴールドの船が現れマリアンヌ号を追跡し始めます。ジェニングスは自らの獲物を守ろうとホーニゴールドを追跡しますが、その隙にベラミーとウィリアムズがサンマリー号から財宝を積んだまま逃走するという裏切り行為に遭いました。ホーニゴールドの追跡に失敗し、バイーヤ・ホンダでベラミーたちの裏切りを知ったジェニングスは激怒し、マリエルから戻ってきたもう1隻の船を破壊しました。

1717年4月、ジェニングスの私掠船団はナッソーに戻り、休養を取っていました。しかし、ベルシェバ号の乗組員が反乱を起こし、サンマリー号の積荷を掠奪する事件が発生しました。ジェニングスは積荷の分配を認めざるを得なくなり、サンマリー号を取り戻した後、再び難破船現場で財宝を略奪し、ハミルトン総督のいるジャマイカへ向かいました。

しかし、ハミルトン総督は政治的に窮地に立たされていました。彼の家族が本国のジャコバイト反乱に関与していたこと、そして彼が支援した私掠行為に対してハバナ総督やイスパニョーラ島のフランス政府から相次いで苦情が寄せられていたからです。同年7月、イギリス海軍のHMSアドベンチャー号がジャマイカに到着し、国王ジョージ1世からの命令によりハミルトンは逮捕され、本国へ連行されました。皮肉なことに、ジェニングスらの活動がハミルトン失脚の一因となったのです。新たに総督に就任したピーター・ヘイウッドは直ちに私掠船に関する調査を命じ、ジェニングスはジャマイカを離れることを決意しました。8月には国王による新たな布告が発せられ、ジェニングスの一団は正式に海賊と認定されることになりました。

ジェニングスはプロビデンス島へ戻り、ヴェイン、エドワード・ティーチ（黒髭）、サミュエル・ベラミーらと共に、「フライング・ギャング」と称される海賊たちの共同体を形成しました。彼らは周辺海域を荒らし回り、商船を混乱に陥れ、大西洋の主要な航路における大きな脅威となりました。軍艦による護衛なしには安全な航海が困難となり、その費用は積荷の12.5%に達することもあったとされています。

恩赦と晩年

プロビデンス島での海賊行為が看過できなくなったイギリス政府は、1717年 9月5日、国王ジョージ1世の名で海賊たちに対し、ウッズ・ロジャーズ総督への投降と引き換えに過去の罪を赦免する布告を出しました。この布告はロジャーズ総督がナッソーに到着する前に海賊たちの間に知れ渡り、激しい議論を呼びましたが、ジェニングスはこれを受け入れることを選択しました。

ジェニングスと彼に同調する者たちは、バミューダのベンジャミン・ベネット植民地総督のもとへ出頭し、赦免状を取得して海賊行為から完全に足を洗いました。これには、私掠船時代からの仲間であるリー・アシュワースも含まれていました。しかし、長らくジェニングスの部下であったチャールズ・ヴェインは、ジャコバイト支持者としての国王への反抗心から恩赦を拒否し、海賊行為を継続しました。後にこの事実を知ったジェニングスは、ベネット総督から私掠免許を受け取り、かつての部下であるヴェインを逮捕しようとしたと伝えられています。

海賊共和国崩壊後、ジェニングスとアシュワースはベネット総督の免許に基づき、一時的に私掠活動を行いました。1719年には、ベラクルス沖合でスペインのブリガンティン船2隻とスループ船1隻を拿捕しています。最終的に私掠活動からも引退した後、ジェニングスはバミューダでプランテーションのオーナーとして成功を収め、平和な生活を送ったとされています。彼の最期については諸説あり、家族と共に余生を過ごしたという話の他に、1745年のオーストリア継承戦争中にスペイン人に捕らえられ、獄中で死去した可能性も指摘されています。

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