ヘンリー・ローリー・ビショップ

ヘンリー・ローリー・ビショップ：舞台音楽の巨匠、そして「埴生の宿」の作曲者

ヘンリー・ローリー・ビショップ（Henry Rowley Bishop, 1786年11月18日 - 1855年4月30日）は、19世紀前半のイギリスで活躍した作曲家であり、特に舞台音楽の分野でその才能を発揮しました。今日ではその名を知る人は多くありませんが、日本では唱歌「埴生の宿」の作曲者として、かろうじて記憶されています。

生涯

1786年、ビショップはロンドンで生まれ、フランチェスコ・ビアンキーニから音楽教育を受けました。1804年には最初の作品となる小品『アンジェリーナ』を作曲。その後、1806年に王立劇場で上演されたバレエ音楽『タマルランとバヤジット』が成功を収め、数々のバレエ音楽を手がけるようになりました。

1809年には最初の歌劇『チュルケスの花嫁』がドルーリー・レーン劇場で上演されましたが、不幸なことに劇場が火災に見舞われ、楽譜もろとも焼失してしまいました。しかし、1810年に公会堂で上演された歌劇『偏執狂』で名声を確立。その後3年間、コヴェント・ガーデン王立歌劇場の専属作曲家として、数多くのオペラ、カンタータ、シェイクスピア劇の付随音楽を作曲しました。その中でも、『太陽の乙女』（1812年）、『粉挽きとあるじ』（1813年）、『ガイ・マネリングと奴隷』（1816年）、『女中マリアンと一族』（1822年）、『ミラノの乙女』（1823年）などが成功を収めました。特に『ミラノの乙女』の導入部のアリア「Home! Sweet Home!」は、日本で「埴生の宿」として親しまれています。

1825年、ビショップはロバート・ウィリアム・エリストンの誘いを受け、ドルーリー・レーン劇場に復帰。ウェーバーの『オベロン』に対抗すべく、歌劇『アラジン』を作曲しましたが、結果は惨敗に終わりました。この失敗により、ビショップはオペラ作曲家としてのキャリアに終止符を打つことになりました。

その後、ビショップは指揮者として活動するようになり、1813年に設立されたロンドン・フィルハーモニック協会の総裁の一人に選ばれました。1830年にはヴォクソールの音楽監督に就任し、人気の歌曲『わがいとしのジェーン』を作曲。また、フィルハーモニック協会のために宗教的カンタータ『第七日』を作曲し、1833年に上演しました。

1839年、ビショップはオックスフォード大学から音楽学の学位を授与され、1841年にはエディンバラ大学の教授に任命されましたが、1843年に辞職。1842年には音楽家として初めてナイトの称号を授与されました。1848年にはクロッチ博士の後任としてオックスフォード大学の教授に就任し、1853年に第14代ダービー伯爵エドワード・スミス=スタンリーが総長に就任した際の歓迎式典オードが、彼の絶筆となりました。

1855年、ビショップは貧困のうちに亡くなりました。

死後

ビショップの音楽は、旋律の明晰さ、流麗さ、そして的確さによって特徴づけられます。和声法は純粋かつ素朴で、甘美であると評価されています。

エピソード

ビショップは2度結婚しており、自身も声楽に心得がありましたが、前夫人ミス・リヨンも再婚相手のアンヌ・リヴィエール（芸名アンナ・リヴィエラ）もオペラ歌手でした。アンヌは後にビショップを捨て、ニコラ=シャルル・ボクサと駆け落ちしました。

代表作

歌劇『チュルケスの花嫁』
歌劇『偏執狂』
バレエ音楽『タマルランとバヤジット』
オペラ『太陽の乙女』
オペラ『粉挽きとあるじ』
オペラ『ガイ・マネリングと奴隷』
オペラ『女中マリアンと一族』
オペラ『ミラノの乙女』（「埴生の宿」の原曲「Home! Sweet Home!」を含む）
歌曲『わがいとしのジェーン』
カンタータ『第七日』

外部リンク

* ヘンリー・ローリー・ビショップの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト

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