ベアトリクス・ファーランド

ベアトリクス・ジョーンズ・ファーランド

ベアトリクス・ジョーンズ・ファーランド（Beatrix Jones Farrand, 1872年6月19日 - 1959年2月28日）は、アメリカ合衆国において、女性として初期に活躍した著名な造園家、ランドスケープアーキテクトです。

彼女は生涯を通じて、個人住宅の庭園から、国営住宅、公共公園、植物園、さらにはホワイトハウスや数多くの大学キャンパスに至るまで、約110に及ぶ庭園設計を手がけました。その作品群のうち、現在まで良好な状態で残されているものは多くありませんが、ワシントンD.C.にあるダンバートン・オークス、メイン州マウント砂漠のアビー・オルドリッチ・ロックフェラーガーデン、そしてプリンストン大学やイェール大学をはじめとする複数の大学キャンパスなどが特に知られています。

1899年に創設されたアメリカ造園家協会（ASLA）の11名の創立メンバーの中で、彼女はただ一人の女性でした。このことから、彼女はランドスケープアーキテクチュアという専門職を女性のために確立した社会的貢献と、風景式庭園デザインにおける優れた芸術的成果の両面において、最も熟練した人物の一人として広く認識されています。

キャリア初期と教育

ニューヨーク市の名家系に生まれたベアトリクスは、「5代にわたる園芸愛好家」という家庭環境で育ちました。母方の祖父は弁護士、曽祖父には政治家ジョン・キャドウェレイダーがいます。

特に、作家である伯母のイーディス・ウォートンとの関係は深く、毎年夏をメイン州マウント砂漠のリーフポイントエステートにある別荘で共に過ごしました。この場所での自然観察は、彼女の園芸やデザインへの関心を深める重要な経験となりました。リーフポイントの庭園は、若き日の彼女が実験的なデザインを試みた初期の舞台でもあります。彼女は生涯を通して、自らを単なる「風景の庭師」ではなく「ランドスケープアーキテクト」と称することを望みました。

当時のアメリカにはランドスケープデザインを専門的に学べる学校がなかったため、彼女は独学と実践、そして一流の師からの指導を組み合わせる道を選びました。20歳の時、マサチューセッツ州ボストンのアーノルド植物園初代園長であり、著名な園芸学教授でもあったチャールズ・スプレイグ・サージェントに師事し、その屋敷に住み込みで学びました。また、植物学や土地計画に加え、設計に必要な測量、製図法、工学といった技術的な知識を習得すべく、ニューヨークのコロンビア大学工学部でウィリアム・ウェア教授の下でも学んでいます。

教育期間中、彼女はイタリア、フランス、オランダ、ドイツ、イングランドなどヨーロッパ各地を訪問し、数多くの庭園を視察しました。彼女の日記には、その旅で得た膨大なインスピレーションが詳細に記されており、ヨーロッパの伝統的な庭園デザインがその後の彼女のスタイルに多大な影響を与えています。

デザインの哲学と影響

ヨーロッパ訪問、特にイタリアのルネサンス庭園やヴィラを視察した経験は、ベアトリクスのデザイン哲学に深く根ざしました。彼女は屋外空間をあたかも室内の部屋のように区切り、構成していく手法を、これらの古典的な庭園からインスピレーションを得て発展させました。

同時に、彼女は地域の在来植物を使用することを強く主張しました。これは、国内外の植物学に関する文献研究に加え、イギリスの著名な庭園作家であるウィリアム・ロビンソンやガートルード・ジーキルの影響も受けています。特にジーキルが自然植栽の重要性とその価値を強調した著作は、アメリカでも広く読まれ、彼女の作品における植物選定や植栽パターンに影響を与えました。

プロフェッショナルキャリアと代表作

1895年、ベアトリクスはニューヨーク市にあった母親のタウンハウスの一室で、ランドスケープデザインの仕事を始めました。当時、女性が公共の大規模プロジェクトに関わる機会は限られていたため、キャリア初期の主な仕事は、バーハーバーなど近隣の著名な人々のための住宅庭園設計でした。母親や伯母イーディス・ウォートンのコネクションもあり、彼女はすぐに社会的に影響力のある顧客を獲得し、重要なプロジェクトを手がける機会を得ていきます。

1899年にアメリカ造園家協会（ASLA）の創設メンバーに選ばれたことは、彼女の才能と地位が早くから認められていたことを示しています。同年、彼女はワシントンD.C.の国立大聖堂の敷地計画と植栽計画を任されました。

1912年に設計したトーマス・ニューボールド夫妻の住宅庭園（現在はフランクリン・D・ルーズベルト国立史跡の一部）は、彼女の住宅庭園デザインの中で現存する最古の例であり、建築事務所マッキム、ミード＆ホワイトとの協働の一例としても知られています。

同時期、彼女はウィルソン大統領の第一夫人エレン・ウィルソンからの依頼を受け、ホワイトハウスの東ガーデン（現在のジャクリーン・ケネディガーデン）と西ガーデン（現在のホワイトハウス・バラ園）の設計を手がけました（1913年）。夫人の死後、プロジェクトは第二夫人に引き継がれ、1916年に完成しました。また、1913年にはジョン・モルガンからニューヨークのモーガン図書館敷地設計の依頼を受け、その後30年間にわたりコンサルタントとして関わっています。

彼女の最も著名な作品とされるのが、ワシントンD.C.ジョージタウン地区にあるダンバートン・オークスの庭園です（1922年～1940年）。この庭園は、イタリアのルネサンス庭園から得たインスピレーションを基に、建物と自然環境との間に洗練された関係を構築することを目指しました。急勾配の敷地を活かし、テラスガーデンから自然な雰囲気の庭園へと移り変わる構成は、アメリカにおける新古典主義庭園の傑作の一つと称されています。

カリフォルニア時代と東西での活動

1928年、夫マックス・ファーランドがカリフォルニア州サンマリノにあるハンティントン・ライブラリーの初代館長に就任したため、夫妻はカリフォルニアへ移住しました。しかし、この地ではすでに名の知られたランドスケープデザイナーが活躍しており、彼女は新たな顧客を獲得するのに苦労しました。数少ないカリフォルニアでのプロジェクトとしては、モンテシトの高齢者施設カーサ・ドリンダや、サンタバーバラ植物園での仕事などがあります。ロサンゼルス地域では、天文学者ジョージ・ヘールや建築家マイロン・ハントと協働し、オクシデンタルカレッジやカリフォルニア工科大学（カルテック）のキャンパス設計にも携わりました。

カリフォルニア移住後も、彼女は飛行機や電車を利用して東部の仕事を続けました。メイン州にあるアビー・アルドリッチ・ロックフェラーの敷地「The Eyrie」における中国風庭園のデザイン（1926年～1935年）や、アーノルド樹木園、ビルトモア・エステートなどでの設計はその一例です。また、ジョン・ロックフェラー2世からの資金援助を受け、メイン州のアーカディア国立公園内の道路沿いの植栽計画も手がけました。

彼女は自身のプライベートガーデンも設計しており、ワシントンD.C.のダンバートン・オークス内や、コネチカット州にあるサマーホーム「Eolia」（現存）などが知られています。伯母イーディス・ウォートンのマサチューセッツ州レノックスにある家「マウント」の景観・庭園デザインにも協力しました。

大学キャンパスデザイン

ベアトリクス・ファーランドは、数多くの大学キャンパスのランドスケープ設計においても大きな功績を残しました。彼女のキャンパスデザインは、主に以下の3つのコンセプトに基づいています。

年間を通して美しい景観を保つ植物の選定と配置。
建物の欠点を隠しつつ、その建築美を強調する植栽計画。
* 建物間の比較的狭い空間でも、スケール感が損なわれないように高さを出す植物を効果的に使用すること。

これらの原則に基づいた彼女のデザインは、実用性、シンプルさ、そして管理の容易さで評価されています。

彼女はプリンストン大学（ニュージャージー州）で、1912年から1943年まで、同大学初のコンサルティング・ランドスケープアーキテクトを務めました。イェール大学（コネチカット州）でも23年間（1923年～1945年）にわたりコンサルタントを務め、湿地植物園などのプロジェクトを担当しています。この他、シカゴ大学、オクシデンタルカレッジ、カリフォルニア工科大学、ペンシルバニア州立女性園芸学校など、10以上の大学キャンパスの改良に貢献しました。晩年には、ハーバード大学アーノルド樹木園のランドスケープコンサルタントも務めています。

晩年と遺産

晩年のベアトリクスは、メイン州リーフポイントにランドスケープ・スタディ・センターを設立することに情熱を注ぎました。ここでは広大な庭園を整備し、一般公開された学習センターとするための準備を進め、その進捗を報告する「リーフポイント・ガーデンズ・ブリテン」（1946年～1955年）を発行しました。

しかし、島で発生した山火事や、センターの継続的な運営に必要な資金不足に直面し、1955年に彼女はセンターの計画を中止するという苦渋の決断を下しました。庭園は解体され、敷地は売却され、彼女は晩年の収入をその費用に充てました。リーフポイントの大型植物は、ジョン・ロックフェラー2世が購入し、彼が所有するAsticou Azalea Gardenに移されました。約2000点の植物標本は、植物とその生育地の記録としてカリフォルニア大学バークレー校などに寄贈されました。

その後、彼女はメイン州マウント砂漠の友人、ルイスとエイミー・マグダレン・ガーランド夫妻の家、ガーランド・ファームで最後の3年間を過ごしました。ここで彼女は、敷地の規模に合わせた、より親密で落ち着いた雰囲気の最後の庭を造りました。

ベアトリクス・ジョーンズ・ファーランドは、1959年2月28日、86歳でマウントデザート島病院にてその生涯を閉じました。彼女は夫と共に、ニューヨーク州ブロンクスにあるウッドローン墓地に埋葬されています。

2004年、ガーランド・ファームはベアトリクス・ファーランド協会によって購入・保存されることになりました。協会の使命は「ベアトリクス・ファーランドの生涯と業績を讃えつつ、園芸と景観デザインの芸術と科学を育成すること」です。協会は、彼女の最後の庭の保存に加え、リーフポイントでの教育活動を復活させるべく、資料図書館やコレクションの整備、試験菜園の設置、教育プログラムの提供などを計画しています。

テクニックとスタイル

ファーランドのデザインスタイルは、自然景観との調和を重視し、可能な限り在来植物を積極的に使用することを特徴としていました。また、植物の質感や色彩を「対位法」のように配置することで、庭園要素に深みとリズムを生み出すことも彼女の卓越したテクニックの一つです。

もう一度検索