ベネトン・B186

ベネトンB186：BMWパワーがもたらした栄光と苦悩

ベネトンB186は、1986年F1世界選手権でベネトン・フォーミュラチームが使用したフォーミュラ1マシンです。前年までトールマンとして活動していたチームをベネトンが買収、チーム名を変更して臨んだ最初のシーズンを彩った1台と言えるでしょう。設計責任者にはロリー・バーンが抜擢されました。

エンジンとドライバー

最大の変更点は、心臓部であるエンジンの変更です。前年まで使用していたハートエンジンから、BMW製の直列4気筒ターボエンジンへと変更されました。この変更決定が遅れたため、バーンは設計開始が前年の10月までずれ込むことになります。
エンジン変更はドライバーラインナップにも影響を与えました。前年から継続して参戦したテオ・ファビに加え、BMWの期待の星、ゲルハルト・ベルガーがアロウズから移籍加入することとなりました。

1986年シーズン：驚異の速さと信頼性の課題

バーンは、前年モデルであるTG185よりもフロントノーズをスリム化することで空力抵抗の低減を目指しました。その結果、B186は圧倒的な直線スピードを誇るマシンとなりました。低中速コースでは苦戦する場面もありましたが、高速サーキットでは真価を発揮。特にオーストリアとモンツァでは、予選で他チームを圧倒する速さを見せつけ、ファビが連続ポールポジションを獲得しました。

特に注目すべきはイタリアGPでの出来事です。予選では、BMWエンジンが5.5バールという記録的な高過給圧で1350馬力を発生。ベルガーは実に351km/hという驚異的な最高速を記録しました。ベルギーGPではフロントローを獲得、ベルガーはドイツGPとイタリアGPで2度のファステストラップを記録するなど、その速さは随所で証明されました。しかし、高いパワーと引き換えに信頼性には課題を残し、リタイヤも多く喫することとなりました。

シーズン終盤のメキシコGPでは、タイヤ交換をせずにレースを戦い抜くという大胆な戦略を成功させ、ベルガーがF1初優勝、そしてベネトンチームにとっても初の優勝をもたらしました。これはバーンにとっても、自身設計のマシンによる初の勝利となりました。

B186のカラーリングは、ベネトンのイメージカラーであるグリーンを基調に、エンジンカウルにはカラフルな模様が描かれた、ポップなデザインが特徴的でした。

開発陣とドライバーの証言

バーンはB186について、「BMWのターボエンジンは強烈なパワーを発生したが、それが度を越して強烈だったため、ホイールスピン対策に終始追われた」と振り返っています。ベルガーも、「スパやモンツァのような高速サーキットでは爆弾のようだった。パワーは信じられないほどだが、ターボラグも大きかった。コーナー出口でパワーを得るためには、入口でスロットルを開け始める必要があるほどだ」と、その強烈なパワー特性を語っています。

翌シーズンにベネトンに移籍したティエリー・ブーツェンは、B186をテストドライブした際に、「アロウズで3シーズンを過ごしたが、B186に乗った瞬間に、アロウズとは違うランクのシャシーだと分かった。コーナーリング性能の差は歴然だった」と、B186の高いシャシー性能を高く評価しました。

シャシーと成績

B186は合計7台が製造されました。開幕戦には3台が投入されましたが、最後の1台は開幕戦の直前に完成しました。シーズンを通して様々なアクシデントに見舞われましたが、ファビの6号車とベルガーの7号車がそれぞれオーストリアGPとイタリアGPでポールポジションを獲得、ベルガーの7号車がメキシコGPで優勝を飾りました。

ベネトンB186は、その圧倒的なパワーと速さ、そして克服すべき課題を同時に持ち合わせた、1986年シーズンのF1を代表するマシンの1台と言えるでしょう。その活躍は、多くのファンに記憶される、F1の歴史に残る名車となりました。

もう一度検索