ベルフェゴール

ベルフェゴール：怠惰と好色を司る悪魔

ベルフェゴール（Belphegor）は、キリスト教における悪魔の一人で、七つの大罪に比肩する存在として知られています。彼は「怠惰」と「好色」を司るとされ、その名はベルフェゴル、ベールフェゴルとも呼ばれます。この悪魔の起源は、古代モアブで崇拝されていた神バアル・ペオルに遡ります。

古代神としてのベルフェゴール

ベルフェゴールの前身であるバアル・ペオルは、「ペオル山の主神」を意味すると考えられています。バアルは豊穣の神を指すこともありますが、ここでは単に「主神」としての意味合いが強いかもしれません。「ペオル」は裂け目を意味し、この神への供物は山の岩の裂け目に投げ込まれていたという解釈があります。

この古代神は、キリスト教が広まるにつれて、一神教的な観点から卑小化され、最終的には悪魔として位置づけられるようになりました。

キリスト教世界でのベルフェゴール

旧約聖書における記述

旧約聖書の『民数記』には、イスラエルの民がモーセに率いられてカナンの地に入る前に、モアブの地でバアル・ペオルを崇拝した事件が記されています。モアブの娘たちはイスラエルの民を誘い、バアル・ペオルへの供犠に同席させ、共に食事をしました。これに激怒したヤハウェは、参加者を死刑に処し、さらに疫病を蔓延させて24,000人もの命を奪ったとされています。この事件は「ペオルの事件」として知られています。

悪魔学における解釈

後の悪魔学では、ベルフェゴールは好色を司る悪魔とされ、占星術では性愛の星とされる金星の悪魔と関連付けられています。これは、「ペオルの事件」でモアブの娘たちが色仕掛けでイスラエルの民を誘惑したという解釈に基づいています。ベルフェゴールはまた、人間の結婚生活を覗き見るとされ、女性の心に不道徳な欲望を芽生えさせる力を持つと信じられていました。このためか、ベルフェゴールは女性に対して非常に不信感を抱いていたとされています。

結婚に関する伝説

中世ヨーロッパの伝説によれば、魔界で「幸福な結婚は存在するのか？」という議論が起こり、ベルフェゴールが人間界に派遣されました。彼は様々な結婚生活を観察しましたが、幸福な結婚など存在しないという結論に至ったとされています。この伝説から、ベルフェゴールは「人間（特に女性）嫌い」を象徴する言葉としても使われるようになり、「ベルフェゴールの探求」は不可能事をほのめかす皮肉な表現となりました。

他の悪魔との関連性

一説には、ベルフェゴールはベルゼブブの配下である悪魔、料理長のニスロクと同一視されることもあります。

容姿

ベルフェゴールの容姿は、一般的に牛の尾、ねじれた二本の角、顎髭を生やした醜悪な姿で描かれます。特に、寝室で洋式便座に座った姿が有名です。しかし、これはコラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』に収録された挿絵によるもので、比較的新しいイメージです。一方で、妖艶な美女として描かれることもあり、これは「ペオルの事件」での誘惑をイメージしたものです。

文学でのベルフェゴール

マキャヴェッリの小説

フィレンツェの外交官ニッコロ・マキャヴェッリは、1549年に散文小説『大悪魔ベルファゴール』を出版しました。この作品は、ベルフェゴールの探求と、悪魔が妻を娶るというスラヴの民間伝承をテーマにしています。物語では、地獄の議会から結婚調査のために派遣されたベルファゴールが、ロデリーゴ・ディ・カスティーリアと名乗り、イタリアに住みます。彼はオネスタという美女と結婚しますが、彼女の傲慢さに苦しめられ、最終的に結婚制度を非難して地獄へと戻ります。

映像世界でのベルフェゴール

フランスでの人気

フランスでは、「ルーブル美術館を夜中に歩き回る怪物」という都市伝説のキャラクターとして人気があります。この設定を基に、1927年にはアルチュール・ベルネッドによる推理小説が新聞で連載され、同年には映画化もされました。その後も、テレビドラマや再映画化が繰り返され、フランスで大ヒットを記録しています。

脚注

出典

参考文献

フレッド・ゲティングズ『悪魔の辞典』大瀧啓裕訳、青土社、1992年6月30日、361頁。ISBN 4-7917-5185-X。
マキァヴェッリ『マキァヴェッリ全集』 4巻、岩倉具忠訳、筑摩書房、1999年7月20日。ISBN 978-4480790149。

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