ベルリン市電

ドイツの首都、ベルリン市内を走る路面電車網は、世界でも最も歴史の長い公共交通機関の一つです。その起源は1865年にまで遡り、今日に至るまで都市の移動を支え続けています。ベルリン市電は、1929年からはベルリン市交通局（Berliner Verkehrsbetriebe、略称BVG）によって運営されており、そのネットワークはドイツ国内で最大、世界的にも有数の規模を誇ります。現在、22の系統があり、382箇所の電停を通じて総延長約191.6キロメートルを結んでいます。特筆すべきは、一部の系統（9系統）では「MetroTram」として系統番号に「M」が付与され、24時間運行が行われていることです。現代の路線網の大部分はかつての東ベルリン地域に位置しており、旧西ベルリンの多くの路線はバスに代替されています。

歴史

ベルリンの公共交通は、1847年の乗合馬車から始まりました。競争が激化する中で、1865年にはドイツ初となる馬車鉄道がベルリンに開業。その後、多くの事業者が参入し、都市の拡大と共に路線網は急速に広がっていきました。

路面電車の歴史において、ベルリンは画期的な一歩を記します。1881年、ヴェルナー・フォン・ジーメンスによって、リヒターフェルデ地区に世界初の電気運転による路面電車が登場しました。これは高架鉄道網を目指すジーメンスの構想から生まれた試験的な路線でしたが、電気運転技術の普及に大きく貢献します。これにより、馬車鉄道は順次電化され、1910年には馬車による運行は姿を消しました。1930年までには、路線延長は630キロメートルを超え、90以上の系統を持つ巨大なネットワークへと成長しました。

この拡大期には、様々な私営および公営の事業者が乱立していましたが、次第に大ベルリン馬車鉄道（後に大ベルリン軌道、GBS）が中心的な存在となり、多くの事業者を統合していきます。最終的に、これらの事業者は1929年に公営企業であるベルリン市交通局（BVG）へと統合されました。BVGは路面電車だけでなく、地下鉄やバス路線も一体的に運営することになり、統合時点での路面電車は89系統、634キロメートル、4000両以上の車両という圧倒的な規模でした。

しかし、1930年代に入ると、自動車優先の都市計画などの影響で路線網は縮小傾向を見せ始め、歴史的な路線の一部も廃止されました。第二次世界大戦中は、物資輸送などにも利用されましたが、激しい空襲によりその機能は徐々に失われ、1945年4月のベルリンの戦いにより完全に運行不能となりました。

戦後から現代へ

第二次世界大戦後、ベルリンの分断に伴い、BVGも1949年に東西に分割されました。西側の「BVG-West」は36路線を、東側の「BVG-Ost」（後にBVB）は13路線の路面電車を管轄しました。東西の境界を越える路線は運行が停止されました。

西ベルリンでは、1950年代半ばから路面電車を廃止し、地下鉄とバス網を拡充する方針が明確になります。既存の地下鉄網が充実していたことなどから、路面電車は時代に合わない交通手段と見なされたためです。これにより、多くの路線が廃止され、1967年10月2日をもって西ベルリンから路面電車は完全に姿を消しました。最終運行は55号線でした。現在、旧西ベルリンで運行されている幹線バス路線の多くは、かつての市電ルートを踏襲しています。

一方、東ベルリンでも自動車交通を重視する動きはありましたが、路面電車の全廃には至りませんでした。特に1970年代後半からは、マールツァーンやホーエンシェーンハウゼン、ヘラースドルフといった大規模な新興住宅地へのアクセス手段として、新たな路線建設が行われ、路面電車網が維持・拡充されました。

ドイツ再統一後、東西のBVGは再び統合されました。これにより、旧西ベルリンにもわずかに路線が延びましたが、依然として路線網の大部分は旧東ベルリン地域に残っています。

現状と車両

現在のベルリン市電は、ドイツ最大の規模を誇り、主要な公共交通機関として市民の生活を支えています。BVGが運行する路線のほか、ベルリン近郊ではヴォルタースドルフ軌道（87系統）、シェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道|シェーンアイヘ_リューダースドルフ軌道（88系統、メーターゲージ）、シュトラウスベルク鉄道（89系統）など、BVG以外の事業者による路面電車も運行されており、ベルリン市電のネットワークと一体的に扱われることもあります。また、南西に隣接するポツダム市にも独自の広範な路面電車網（ポツダム市電）が存在します。

ベルリン市電の68系統は、ナショナルジオグラフィック協会によって「世界の素晴らしい路面電車路線10選」の一つに選ばれるなど、景観や特徴が評価される路線も存在します。

現在の車両は主に3種類があります。

タトラカー (KT4D/KT4Dm): 旧東ドイツ時代に導入されたチェコスロバキア製の連接車。近代化改修を受けた車両（KT4Dm）が一部使用されていますが、新型車両への置き換えが進んでいます。
GT6N: 1990年代に導入されたドイツ製の超低床連接車。「ブレーメン形」とも呼ばれ、バリアフリーに対応しています。片運転台のGT6Nと両運転台のGT6N-ZRがあります。
* フレキシティ・ベルリン (Flexity Berlin): 2000年代以降に導入されている最新鋭の超低床車両。カナダのボンバルディア・トランスポーテーション（現アルストム）製で、編成両数や運転台数により複数のタイプが導入され、旧型車両の置き換えを担っています。

ベルリン市電は、その長い歴史の中で様々な変遷を経てきましたが、今もなお都市の主要な交通網として機能し続けています。広大なネットワークと多彩な車両群は、ベルリンという都市の歴史そのものを映し出しているかのようです。

もう一度検索