ベル 412

ベル 412は、アメリカのベル・ヘリコプター・テキストロン社（現在のベル・テキストロン）によって開発された双発エンジンの多用途ヘリコプターです。長年にわたり多くの国で使用されてきたベル 212をベースに、ローターシステムなどの改良を加えて誕生しました。

開発の背景と進化

ベル 412の開発は、ベル 205（軍用名称UH-1イロコイの発展型）を双発化したベル 212が1968年に初飛行したことを受け、その性能向上を目指して1978年に本格的に始まりました。最初のベル 412は1979年 8月3日に初飛行し、1981年1月にはアメリカ連邦航空局（FAA）の型式証明を取得、同月より納入が開始されました。初期の量産型に続き、燃料搭載量や最大離陸重量を増やした412SP（Special Performance）、変速機を改良し性能を高めた412HP（High Performance）が登場しました。その後、デュアル・デジタル自動飛行制御システムを搭載した412EP（Enhanced Performance）が開発され、カナダ軍のCH-146グリフォンなど、様々な軍用派生型の母体となりました。2013年には、最新のエンジン制御技術（FADEC）を採用したエンジンと、完全に統合されたグラスコックピットを備えた最新型412EPIが発表されています。

革新的な設計

ベル 412の最も顕著な改良点は、従来の2枚ブレードから複合材製の4枚ブレードを持つメインローターへの変更です。このブレードはノーメックス製ハニカムコアをガラス繊維で包み込んで結合した構造を持ち、内部には凍結防止ヒーターが組み込まれています。ローターヘッドには鋼と軽合金が使用され、機械的なヒンジや重い粘性ダンパーを不要とするエラストメリック・ベアリングとダンパーが装備されました。これにより、機体の巡航速度が向上し、機内での振動や騒音も低減されました。また、エラストメリック・ベアリングは潤滑が不要なため、メンテナンスが容易になり、点検は目視で行えるようになりました。さらに、フレックスビームヨークの採用により、制御応答性が高まり、ローターの寿命延長に貢献しています。胴体部分はベル 212と高い共通性を保ちつつ、燃料タンク容量が約50%増加しています。この共通性により、ベル 212からの更新に際して多くの搭載機材をそのまま使用できるため、既存ユーザーにとって魅力的な選択肢となっています。

日本における開発と運用

日本では、消防防災航空隊や警察航空隊、海上保安庁などで古くから多数のベル 412が運用されています。近年、陸上自衛隊のUH-1J/Hの後継となる次期多用途ヘリコプター（UH-X）として、ベル 412をベースとした案が防衛省に選定されました。これは防衛省主導の開発ながら、輸出を含む自衛隊以外の用途も視野に入れた初のケースであり、SUBARUとベル・テキストロンの共同開発体制がとられています。この機体は陸上自衛隊向けにはUH-2、民間型としてはベル 412EPXと命名されました。2018年に初飛行し、2021年にはUH-2として開発試験を完了、部隊運用が開始されています。

ベル 412EPXは、従来の412EPを基に、メインローターギアボックスやトランスミッションの強化、ドライラン能力の向上、最大離陸重量の増加など、大幅な性能向上が図られています。また、SUBARUが培ってきた金属表面加工技術や効率的な生産技術も投入されています。製造は日本国内に集約することでコスト削減が図られており、SUBARUの宇都宮製作所南工場が整備拠点となっています。

SUBARU（旧富士重工業）は過去にも、ベル 412SPを実験機として独自開発したベアリングレスローター（FBR）の試験を行っており、騒音低減や飛行性能の向上といった良好な結果を得ています。こうした長年の技術開発とベル社との関係が、UH-X/412EPXの共同開発に繋がったと言えます。

多様な用途と世界での展開

ベル 412はその優れた汎用性から、世界中の多くの国で軍事用、政府用、民間用として幅広く使用されています。軍では軽貨物輸送、兵員輸送、捜索救難、練習機として、政府機関では警察の監視活動や消防・防災ヘリコプターとして、民間では人員輸送や物資輸送などに投入されています。派生型も多岐にわたり、攻撃ヘリコプター仕様や哨戒ヘリコプター仕様などの計画も存在しました。日本国内でも、陸上自衛隊へのUH-2配備が進められているほか、民間型412EPXが警察庁や海上保安庁などから受注されるなど、今後も活躍が期待されています。

主要諸元 (代表的なベル 412EP)

乗員: 1-2名
乗客: 最大13名、または約3,000kgの外部搭載能力
全長: 17.1m（胴体長 13.1m）
主ローター直径: 14.0m
全高: 4.6m
エンジン: プラット・アンド・ホイットニー・カナダPT6T-3D ターボシャフトエンジン 2基
最大離陸重量: 5,397kg
巡航速度: 約226km/h
* 航続距離: 約662km

このように、ベル 412は基本的な設計の堅牢さと、時代に合わせて改良が重ねられた高い汎用性により、現在でも世界中で重要な役割を担っているヘリコプターです。

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