ペカロンガン

ペカロンガン：バティックと歴史が織りなすインドネシアの港湾都市

インドネシアの中部ジャワ州に位置するペカロンガン市は、古くから栄えた港湾都市として知られています。かつてはペカロンガン県の中心地でしたが、現在は州直轄の独立した行政単位となっています。バティック産業が盛んで、その美しい織物は世界的に有名です。2014年には東南アジアで初めてUNESCOの世界創造都市網に加盟し、その文化的な重要性を国際的に認められました。オランダ植民地時代にはパカロンガンと呼ばれていました。

ペカロンガンの歴史：古代王国から現代都市へ

ペカロンガン周辺の沿岸地域は、かつてはカリンガ王国の一部だったと考えられています。近隣のバタン県で発見された7世紀のソジョメルト碑文は、カリンガ王国とシャイレーンドラ朝との繋がりを示唆しています。カリンガ王国の首都の正確な位置は不明ですが、ペカロンガンとジェパラの間のどこかであったと推測されています。歴史的な変遷を経て、カリンガがペカロンガンへと変わっていったのかもしれません。

1178年の宋の記録には、ペカロンガンが既に港として存在していたことが記されています。中国の商人たちはペカロンガンを「プカロン」と呼び、ジャワ島の重要な交易拠点として認識していました。記録によると、ジャワの王はプカロンに住み、独特の髪型をしていたとされています。国民は短髪で、鮮やかな布を身につけていたと描写されています。中国商船は広州から約1ヶ月かけてプカロンに到着し、ココナッツワインや砂糖黍などの交易が行われていました。王国は青銅や銅の貨幣を鋳造し、独自の経済システムを築いていたことが伺えます。主要な輸出品は、黒胡椒、クローブ、香木、沈香、カルダモンなどでした。

17世紀初頭、ペカロンガンは条約や婚姻を通じてマタラム王国の一部となりました。マタラム王国はジャワ島の内陸部を拠点としていたため、ペカロンガンは辺境地にあたりますが、豊かな地域であり、莫大な税金や農産物をマタラム王国の中央に供給し続けました。その結果、17世紀末までにはマタラム王国の中で重要な地位を確立しました。

18世紀に入ると、ペカロンガンは不況に見舞われ、オランダ東インド会社の影響力が強まりました。1753年には、現在も残るオランダの要塞が建設されました。

1830年代から、ペカロンガンは砂糖の一大生産地へと発展しました。中国の歴史書には、12世紀には既に砂糖黍が栽培されていたことが記されていますが、19世紀半ばのオランダの政策により、生産が大幅に拡大しました。この砂糖生産の拡大は、オランダ植民地政府による賦役労働の導入によって成し遂げられました。

1860年代から1890年代にかけて、賦役制度は廃止され、労働者は賃金労働へと移行していきました。しかし、1930年代の世界恐慌により、植民地時代の砂糖産業は壊滅的な打撃を受けました。それでも、砂糖は独立後もペカロンガンの重要な輸出品であり続けました。

1945年10月8日には、「3地方運動」と呼ばれる反封建運動がペカロンガン、テガル、ブレベスの3地域で勃発しました。この運動は、貴族が独占していた県令の地位を庶民が奪取することを目指したものでした。運動指導者たちは、旧県令が日本軍に協力し、住民を収容所に送っていたとして人々の反感を煽りました。運動の結果、新しい県令が誕生しましたが、インドネシア政府はこの運動を違法と宣言し、鎮圧しました。この事件は「3地方事件」として歴史に刻まれています。

ペカロンガンの地理と交通

ペカロンガンは、南緯6°50’42” – 6°55’44”、東経109°37’55” – 109°42’19”に位置し、総面積は45.25km²です。4つの区と27の村に分かれています。

ジャカルタとスラバヤの中間地点に位置するペカロンガンは、便利な交通網を備えています。ペカロンガン駅は主要な鉄道の停車駅であり、ペカロンガン・バス・ターミナルも重要な交通拠点となっています。

ペカロンガンの観光と産業

ペカロンガンには、バティック博物館をはじめ、カウマン・バティック観光村、ペシンドン・バティック観光村など、バティックに関連した観光地が多く存在します。その他、メドノ観光村、ランドゥンサリ・カンティング観光村、パシル・ケンカナ浜、スラマラン・インダー浜、ペカロンガン・マングローブ公園、英雄の碑、ジェタユ文化地区なども観光名所です。

ペカロンガン経済の基盤はバティック産業です。小規模工場では手作業による染織、大規模工場では印刷による生産が行われています。1998年のインドネシア経済危機で大きな打撃を受けましたが、その後は部分的に回復しています。現在では、バティック産業に加え、造船所（伝統的な木製船と現代的なガラス繊維製の船）、小規模菓子産業、漁港、魚缶詰工場、ショッピングモール、高級ホテルなども経済を支えています。

ペカロンガン出身の有名人

ペカロンガン市は、社会学者、スポーツ選手、文学者、軍人、検察官、俳優、警察長官など、様々な分野で活躍する著名人を輩出しています。

参考文献

Knight, G.R. (1995) Gully Coolies, Weed-Women and Snijvolk: The Sugar Industry Workers of North Java in the Early Twentieth Century. Modern Asian Studies 28(1):51-76.
Ricklefs, M.C. (1986) Some Statistical Evidence on Javanese Social, Economic and Demographic History in the Later Seventeenth and Eighteenth Centuries. Modern Asian Studies 20(1):1-32.

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