シャイレーンドラ朝

シャイレーンドラ朝：ジャワから東南アジアへ

シャイレーンドラ朝は、8世紀半ばから9世紀前半にかけてジャワ島中部に存在した王朝です。サンスクリット語で「山の王」「山の王家」を意味するこの王朝は、大乗仏教を信仰し、壮大なボロブドゥール寺院を建立したことで知られています。

起源と成立

シャイレーンドラ朝の起源については、いくつかの説が存在します。

シュリーヴィジャヤ王国との関係: 一説には、シュリーヴィジャヤ王国がジャワ島に進出し、その後シャイレーンドラ朝を形成したとされます。しかし、別の説では、ジャワに成立した王家が後にシュリーヴィジャヤを支配したと考えられています。この王朝は、一時的にスマトラ島のシュリーヴィジャヤとも統合され、シュリーヴィジャヤの名で繁栄を続けました。
扶南との関連性: 「山の王家」という名称から、古代インドシナの扶南との関係を指摘する見方もあります。シャイレーンドラ・シュリーヴィジャヤ王国が、何らかの形で扶南の後継者であった可能性も示唆されています。
人種的背景: シャイレーンドラ朝の人種については、モンゴロイド説とオーストラロイド系のマレー人説がありますが、後者が有力とされています。また、7世紀初頭には、古マレー語の碑文に「セレーンドラ」王とその家族の名前が記されており、彼が王朝の始祖とする説が有力です。
碑文による裏付け: 775年のサンスクリット語碑文には、ヴィシュヌという名の「シャイレーンドラ王家のシュリーヴィジャヤ王」が3つの寺院を建立したことが記されており、この時期にシュリーヴィジャヤがシャイレーンドラ王家の支配下に入ったと考えられています。

中部ジャワの支配とボロブドゥールの造営

シャイレーンドラ朝は、パナンカラン王の時代に「山からの王」という称号を得て、中部ジャワでの支配を確立しました。一時的にヒンドゥー教の古マタラム王国を圧倒するほどの勢力を持ちました。特に、大乗仏教を保護し、ボロブドゥール寺院を建設したことは、この王朝の大きな特徴です。

ボロブドゥール寺院: この巨大な石造ストゥーバは、ダルマトゥンガ王の時代に建設が始まり、サングラーマグナンジャヤ王の時代に完成しました。さらに、サマラトゥンガ王の時代には増築が行われたとされています。底部の一辺が120メートル、高さが約42メートルにも及ぶ壮大な建造物です。
カラサン寺院: ダルマトゥンガ王は、カラサンにチャンディ・スヴーを中心とする240の付属寺院からなる複合建築（カラサン寺院）を建立しました。また、この時代にはサンスクリット語の辞典『アマラテラ』が古代ジャワ語に翻訳されるなど、文化的な発展も見られました。
その他の寺院: サングラーマグナンジャヤ王はチャンディ・セウを建立しました。また、ボロブドゥールの東にはムンドゥット寺院があり、その内部には美しい仏像が安置されています。ボロブドゥール、ムンドゥット、パオン寺院は一連の構造物として考えられており、現在ではボロブドゥール寺院遺跡群として世界遺産に登録されています。

勢力拡大と衰退

全盛期のシャイレーンドラ朝では、古マタラム王国のサンジャヤ王の子孫がこれに服属し、仏教寺院への寄進を行っていました。しかし、両王国の関係は必ずしも敵対的ではなく、9世紀中ごろにはシャイレーンドラの王女とサンジャヤ朝の王子が結婚しています。その後、王族の争いから、シャイレーンドラ王家出身のサマラーグラビーラがシュリーヴィジャヤに逃れ、その地の王となったとされています。

東南アジアへの進出: シャイレーンドラ朝は8世紀後半に東南アジアの海域に進出し、カンボジアやベトナム南部に襲来したことが記録されています。767年にはハノイが「崑崙闍婆軍」に攻略されたとされていますが、その理由は明らかになっていません。クメール人に広まった大乗仏教も、シャイレーンドラの強い影響を受けているとする見解があります。また、ジャヤーヴァルマン2世がアンコール朝を興した際、「ジャワの宗主権からの解放者」と称されたことから、シャイレーンドラ朝が一時的にクメール国を支配していたとする説も存在します。
* パラル王朝の台頭: 832年には、ジャワのパラル王朝に服属させられ、シャイレーンドラ王女とサンジャヤ朝の王子との結婚は、パラル王朝への対抗策であったと考えられています。その後、シュリーヴィジャヤ王家と姻戚関係を結び勢力拡大を図るも、古マタラム王国などのヒンドゥー勢力によってジャワから後退しました。その後、シュリーヴィジャヤと合邦し、スマトラ島を拠点としましたが、11世紀に滅亡しました。

統治者一覧

シャイレーンドラ朝の統治者のリストは、史料が不足しているため、研究者によって見解が異なる部分があります。しかし、一般的に、パナンカラン王からサマラトゥンガ王までの期間がシャイレーンドラ朝の全盛期とされています。また、近年の研究では、シャイレーンドラ朝の時代は7世紀中葉から11世紀初頭までと、より長期に渡っていたとされています。この間、シャイレーンドラ朝は中部ジャワとスマトラ島を支配し、シュリーヴィジャヤとの婚姻関係を通じて両王家の血が混じり合いました。

シャイレーンドラ朝は、その壮大な寺院建築や東南アジアへの影響など、歴史の中で重要な役割を果たした王朝です。その起源や衰退についてはまだ不明な点も多く、今後の研究が待たれるところです。

もう一度検索