ペルーン

ペルーン：スラヴ神話の雷神

ペルーン（Перун / Perun）は、スラヴ神話における雷神であり、主神として知られています。その名は、ロシア語ではピィエルン、ポーランド語ではピョルンまたはピオルン、チェコ語ではペラウン、スロバキア語ではペロンなど、地域によって様々な呼び名があります。名前の語源は、古代アーリア民族にまで遡るとされています。

神話

ペルーンは東スラヴの最高神とされ、「雷で打つ者」という意味を持つという説があります。その名前は、バルト地方の神ペルクーナスやペールコンス、アルバニアのペレンディ、北欧神話のフィヨルギュンなど、他のインド・ヨーロッパ神話の神々と語源的に近いと考えられています。

多くの雷神と同様に、ペルーンは髭を生やした中年男性の姿で描かれます。石臼に乗って空を飛び、稲妻を放ち雷鳴を轟かせます。民俗学者アファナーシェフによれば、ペルーンは雷と稲妻を武器とし、敵対者に炎の矢を降らせます。翼のある馬が引く馬車に乗り、空を駆け、農地に雨を降らせるとも言われています。また、時には地上に現れ、雲を払い、雪解けと温かな陽光をもたらす豊穣神としての側面も見せます。

1202年に書かれた『言語母論』では、ペルーンは「ジュピター」と訳されています。このことから、19世紀以降の研究者はペルーンを、ギリシア神話のゼウスや北欧神話のトールのような雷神と見なすようになりました。アーサー・コットレルは、882年にヴァイキングのオーレクがキエフを攻略したことが、トール信仰をペルーン信仰に影響を与え、ペルーンがトールと似た性質を持つようになったと考えています。

ペルーンの神話では、天空に座するペルーンと大地に座するヴォーロスが対立する構図がよく見られます。ペルーンが一騎討ちに勝利すると、水や家畜、女性を解放し、農作物の実りをもたらす慈雨を降らせます。このため、ペルーンは雷や雨、そして豊穣の神として解釈され、南スラヴの降雨儀式にその痕跡が残っています。

信仰

ペルーンは『ルーシ原初年代記』にも登場し、ルーシの侯と従士団がペルーンと武器に誓いを立てる場面が描かれています。これは、ペルーンが守護神、そして軍神として崇められていたことを示しています。キエフ大公オリガと彼女の戦士たちが戦場へ赴く際にペルーンの加護を祈った、イーゴリ大公がペルーンの偶像の立つ丘に武器や盾、黄金を置いた、などの伝承も残っています。

ペルーン信仰は東スラヴ各地に広まっていました。キエフ大公ヴラジーミルがキエフの丘に建てた6体の神像の中にもペルーンが含まれており、頭部は銀、髭は金で彩られていたと伝えられています。この丘には、ストリボーグ、ダジボーグ、ホルス、モコシ、セマルグルも祀られていました。人々はこれらの神像に集まり、家族で参拝し、生贄を捧げていました。

988年、ヴラジーミルはキリスト教（正教）に改宗し、家臣にも洗礼を受けさせました。支配階層が改宗したことで、ペルーン信仰は衰退し、像はドニエプル川に投棄されたと言われています。古代の神々は異教として排斥されましたが、ペルーンは旧約聖書の預言者エリヤと結び付けられ、一般の人々は、不思議な鋤を持つ力強い農夫の姿をした神として語り継ぎました。

6世紀の東ローマ帝国の記録によれば、スラヴ人が最も重要視していた神は稲妻の神であり、牛などを供物として捧げていたとされています。スラヴ人の居住地域には、ペルーンに由来する地名が数多く残っています（クロアチアのペルナ・ドゥヴラヴァ、ブルガリアのペルニクやペルシティツァなど）。

ペルーンは、スラヴ神話において重要な位置を占める神であり、その信仰は古代から中世にかけて東スラヴ社会に深く根付いていました。雷神、軍神、豊穣神としての性格を持ち、人々の生活や文化に大きな影響を与えたと考えられます。

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