ヴォーロス

ヴォーロス：スラヴ神話における豊穣と冥界の神

ヴォーロス（またはヴェーレス）は、スラヴ神話において重要な役割を担う神であり、地球、家畜、冥界を司るとされています。一部の研究では、彼は怒れる獣（熊）またはドラゴンの姿で表され、雷神ペルーンと対立する存在として描かれています。

ヴォーロスの概要

『原初年代記』には、ヴォーロスは家畜の神として記述されています。古代スラヴの人々にとって家畜は生活の基盤であり、ヴォーロスは家畜を守護する神として崇拝されました。また、夜空の星を家畜に見立て、ヴォーロスを月神として捉える考えもありました。家畜の守り神であることから、ヴォーロスは財宝や豊穣多産も司ると考えられるようになりました。

ルーシとビザンティン帝国との間で締結された条約にも、ヴォーロスの名が登場します。彼はペルーンと共に重要な役割を担っており、ルーシの戦士たちがヴォーロスとペルーンの前で武器に誓いを立てたという記述もあります。しかし、キエフ大公ウラジーミルが建立した神像には、ヴォーロスの像は含まれていません。これは、ヴォーロスが戦士を守護するペルーンとは異なり、一般の人々にとってより身近な存在であったためと考えられています。

ヴォーロスの姿と象徴

ヴォーロスは、ドラゴンのような姿で表されることがあり、地球、家畜、冥界を象徴しています。一部の研究者は、ヴォーロスを家畜をむさぼり食う地下の蛇と定義しています。また、ヴォーロスの名前に似たロシア語の「volos」（毛髪）や「volosatyj」（毛むくじゃら）といった言葉から、熊と関係する獣の姿をした神という説も存在します。

キリスト教受容後のヴォーロス

988年、ウラジーミル大公はキリスト教（ギリシャ正教）を国教と定め、ヴォーロスの神像はポチャイナ川に投棄されました。ロストフでは、ヴォーロスの神像が破壊され、その跡に教会が建てられました。しかし、農民の間ではヴォーロスへの信仰が根強く残り、家畜の守り神として崇拝され続けました。ヴォーロスは、キリスト教の聖ヴラーシイ（聖ブラシウス）崇拝と習合し、家畜の守護聖人としてその名残をとどめています。

ヴォーロスとヴェーレス

ヴォーロスとヴェーレスは、同一の神の異名であると考えられていますが、北部ロシアのヴェーレスの石像には「家畜の神」と呼ばれた痕跡がありません。また、リトアニア語の「Welis」が死者、リトアニア語やチェコ語の「vere」が悪魔を指すことから、死を司る神ではないかとの説もあります。文献では、ヴェーレスの名は西スラヴや南スラヴで多く見られ、「死」や「詩」と関連付けられています。そのため、ヴェーレスには詩神という説もありますが、『イーゴリ軍記』では吟遊詩人ボヤーンが「ヴェーレスの孫」と呼ばれていることから、ヴォーロスとヴェーレスは必ずしも同一の神格ではないという意見もあります。ヴェーレスの名は、マケドニア共和国の町ヴェレスなど、南スラヴの地名にも残っています。

ヴォーロスは、スラヴ神話において多様な側面を持つ神であり、その信仰は時代とともに変化してきました。彼の名は、現代にも地名や文化の中にその痕跡をとどめています。

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