ペンドリーノ

ペンドリーノ：曲線走行を可能にする車体傾斜式電車の技術

ペンドリーノ（Pendolino）は、イタリアのフィアット社（現在はアルストム社）が開発した車体傾斜式電車です。イタリア語で「振り子」を意味する「pendolo」に由来し、その名の通り、曲線区間を走行する際に車体を傾斜させることで、乗り心地を損なわずに高速走行を可能にする技術が特徴です。

ペンドリーノ開発の歴史

イタリアは山岳地帯が多く、線路のカーブが多いため、高速鉄道の開発において曲線通過速度の向上が重要な課題でした。1950年代から車体傾斜式車両の研究開発が始まり、1971年にはペンドリーノの原型となる試作車Y-0160が完成しました。さらに、イギリス国鉄のAPTの技術も導入し、1975年には初の営業用車両ETR401が登場しました。

1977年には、フィレンツェ-ローマ高速線の一部が開業し、250km/h運転が実現しましたが、その後の整備は遅れ、全線開通は1992年まで待たなければなりませんでした。ペンドリーノは、在来線の高速化のために、曲線通過速度向上に不可欠な技術として導入されました。

ペンドリーノの技術

ペンドリーノの車体傾斜システムは、日本の自然振り子式とは異なり、油圧シリンダーで車体を最大8度傾斜させる強制車体傾斜式を採用しています。これにより、高速新線だけでなく、在来線でも快適な高速走行が可能になります。イタリア国内では、高速新線（ディレッティシマ）で最高速度250km/hでの走行も実現し、広大なネットワークを構築しました。

各国への展開

ペンドリーノは、高速新線を建設するほどの需要や経済力がない国を中心に、多くの国に輸出され、在来線の高速化に貢献しています。特に、イギリスでは、かつてAPTが試験走行した西海岸本線に、ペンドリーノの技術を採用した390形「ペンドリーノ・ブリタニコ」が導入されています。

イタリア国内のペンドリーノ

ETR450: 1988年に営業投入された初の車体傾斜車両。9両編成の動力分散式電車で、直流専用です。
ETR460: 1994年登場の第2世代。電動車の比率が減り、車体幅が広くなり、定員が増加しました。デザインはジョルジェット・ジウジアーロが担当しました。
ETR470 (CIS): 1996年に登場し、スイス・ドイツへの乗り入れに対応した交直流電車です。当初はチザルピーノ社が保有していましたが、現在はスイス、イタリア両国での保有となっています。最高速度は200km/hに抑えられています。
ETR480: フランスへの乗り入れのため、ETR460を交直流対応とした形式です。高速新線での走行を前提としています。
ETR600: イタリア国内専用の第4世代ペンドリーノで、直流3000Vと交流25kV50Hzに対応しています。最高速度は250km/hです。
ETR610: チザルピーノ社向けの第4世代ペンドリーノで、直流3000V、交流25kV50Hzに加え、スイス・ドイツ・オーストリア直通のため、交流15kV 16.7Hzにも対応しています。最高速度は250km/hです。

イタリア国外への輸出

ドイツ: 610形気動車は、ニュルンベルク・ホーフ間の山間路線で運行されました。また、ICE Tにもペンドリーノの車体傾斜システムが採用されています。
フィンランド: S220（Sm3）は、ETR460をベースに開発され、ヘルシンキと国内主要都市を結んでいます。Sm6は、ヘルシンキとサンクトペテルブルクを結ぶ国際列車に運用されています。
ポルトガル: ETR480 アルファ・ペンドゥラールが、リスボンとポルトを結んでいます。
スペイン: 490形は、ETR460をベースに開発され、マドリードとバレンシアを結んでいます。
スロベニア: 310形がスロベニア国鉄のICS（Intercity Slovenija）用に投入され、かつてはイタリアのヴェネツィアまで直通していました。
イギリス: 390形「ペンドリーノ・ブリタニコ」が、ロンドンとイングランド北部やスコットランドを結んでいます。
チェコ: 680形が、プラハ・オストラバ間などでSC（スーパーシティ）として運転されています。
ポーランド: ED250が、インターシティ用の車両として運行されています。
中国: CRH5が、中国国鉄第6次在来線スピードアップのために導入されました。

ペンドリーノの今後

ペンドリーノは、必ずしも高速新線を必要とせずに、在来線の高速化を安価に実現できるため、今後もその勢力を拡大すると考えられます。ルーマニアでの導入も検討されており、その活躍が期待されます。

関連項目

ユーロスター・イタリア
高速鉄道
TAV

外部リンク

Pendolino Technical Table
フィアット社鉄道車輌部門の歴史
Tiltng-Train
Alstom社鉄道車輌部門
CIS（チザルピーノ社）
FS(Ferrovia del Stato:イタリア鉄道)
* Virgin Rail(UK)

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