TAV

TAV (Treno Alta Velocità S.p.A.) について

TAV（Treno Alta Velocità S.p.A.）は、1991年に設立されたイタリアの高速鉄道会社です。同社は、イタリア国内の高速鉄道路線の計画、建設、運営を一手に担い、在来線との接続線の建設や改良も行っています。フェッロヴィーエ・デッロ・スタート（Ferrovie dello Stato）の完全子会社であり、イタリアの鉄道インフラの中核を担う存在です。

概要

TAVの主な目的は、イタリア各地で輸送量が飽和状態にある既存の鉄道路線（例：ミラノ-ナポリ、トリノ-ミラノ-ヴェネツィアなど）に並行して高速新線を建設し、混雑を緩和することです。このプロジェクトは、イタリアの既存鉄道網をヨーロッパ標準に合わせた、より近代的で高度なシステムに変革することを目指しています。また、高速鉄道を国内の主要幹線に導入することで、所要時間、運行頻度、安全性を向上させることも重要な目的です。

優等列車がTAVの建設した新線へ移行することで、在来線はより低速のローカル列車や貨物列車の輸送能力を向上させることができます。この点において、TAVの高速鉄道網はドイツの高速鉄道網と似ており、客貨両用の複合輸送を可能にしています。将来的には、TAVが建設する路線は、フランスのTGV、ドイツのICE、スペインのAVEなどのヨーロッパ各国の高速新線ネットワークと接続され、ヨーロッパ全体の高速鉄道網の一部となることが期待されています。

イタリアでは自動車輸送が主流ですが、高速鉄道網の導入は、他の輸送機関との競争を促し、西ヨーロッパ諸国に遅れを取っていた鉄道インフラを改善する目的もあります。これにより、イタリアにおける輸送の選択肢が増え、高速列車による競争力の高い輸送が実現します。

全国高速鉄道計画

フェッロヴィーエ・デッロ・スタート（FS）とイタリア交通省は共同で全国高速鉄道計画を策定し、総延長1,250kmの高速鉄道を整備する計画です。現在、約400kmの区間で建設工事が進められています。

使用車両

TAVの路線では、ペンドリーノやETR500など、さまざまな高速車両が使用されています。

路線網

営業路線

ローマ - フィレンツェ（フィレンツェ-ローマ高速線）：
通称「ディレッティシマ」として知られる最初のTAV路線。1970年6月に着工、1977年に一部区間が開業。
総延長254km（高速新線区間は237km）。
信号システムにはRS4 Codici（車内信号方式）を採用。
ローマ - ナポリ（ローマ-ナポリ高速線）：
1994年に着工し、2005年に大部分が開業（全長204.6kmのうち186km）。
ナポリ北側の約20kmは遺跡発掘のため遅延。2009年開業予定。
主要連絡駅としてアフラゴラ駅を建設中（設計：ザハ・ハディッド）。
沿線には多くのトンネル、高架橋、橋梁が存在。
信号システムにはERTMS（ETCSレベル2とGSM-R）を採用。
イタリア初の交流電化25kV・50Hzを採用。
使用車両はETR480とETR500（機関車は2電圧に対応）。
営業最高速度は300km/h。試験走行で348km/hのイタリア最高速度を記録。
テルミニ駅（8・9番ホーム）とナポリ中央駅（12・13・16・17番ホーム）を使用。
トリノ - ミラノ（トリノ-ミラノ高速線）：
路線延長125km。
ポー川流域の平坦な地形を走行し、アウトストラーダA4号線と並行。
交流電化25kV・50Hz。
トリノ - ノヴァーラ：
路線延長84km。
2002年着工、2006年トリノオリンピックに合わせて開業。
マルペンサ空港への分岐線あり。
RFI所有の高速列車「アルキメデス」で各種データを測定。
ミラノ - ボローニャ（ミラノ-ボローニャ高速線）：
路線長182km。2008年開業。
アウトストラーダA1号線沿いに並行して建設。
主要構造物としてポー川を渡る橋梁、モデナ市の高架橋、サンティアゴ・カラトラヴァ設計の新駅など。
ミラノ-ローマ間を結ぶ速達列車が毎日19本運行、所要時間は3時間30分。
ボローニャ - フィレンツェ（ボローニャ-フィレンツェ高速線）：
アペニン山脈を横断する難工事路線。路線長78.5km（うち73.8kmがトンネル区間）。
2009年開業。
ボローニャとフィレンツェには地下駅を建設中。

将来の需要

トレニタリアによると、高速鉄道の利用者は増加しており、2010年には3,000万人に達すると予測されています。トリノ-ミラノ-ナポリ間の利用者も大幅な増加が見込まれています。

新型車両導入による時間短縮

2015年6月14日より、新型車両ETR1000がミラノ―ローマ間で本格運用を開始。これにより、同区間の所要時間が2時間20分に短縮されました。

建設中および計画中の路線

ノヴァーラ-ミラノ：
2002年着工、2009年初頭に開業予定。
トリノ-ミラノ間の所要時間が50分に短縮される見込み。
ミラノ - ヴェローナ：
路線長112km、現在はミラノ-ブレシア間を建設中。
ヴェローナ - パドヴァ：
路線長75km。
パドヴァ - ヴェネツィア：
2003年着工、総延長25km。2010年開業予定。
ミラノ - ジェノヴァ：
2006年着工予定。ロッテルダム-ジェノヴァ交通回廊の一部。
54kmのうち36kmがトンネル区間。

建設費

トリノ-ミラノ-ローマ-ナポリ間の高速鉄道の総工費は300億ユーロ（約4.8兆円）。キロ当たりの建設費は0.25-0.59億ユーロと、他の欧州諸国に比べて高額です。この要因として、客貨両用であること、急勾配の制限、橋梁が多いこと、環境問題によるトンネル区間の増加、遺跡発掘調査などが挙げられます。

計画中の路線

リヨン - シャンベリ - トリノ：
TGVとTAVを接続する路線で、52kmの長大トンネルが計画されています。
ミラノ - スイス国境：
スイスとドイツ方面を連絡する路線で、アルプトランジット計画と接続予定。
ブレンナーベーストンネル：
オーストリア、ドイツ方面への接続を目的とし、56kmの長大トンネルが計画されています。
トリエステ - スロヴェニア国境 - リュブリャナ：
中欧、チェコ方面への連絡を目的としています。

参考文献

秋山芳弘 「イタリアの高速鉄道」『鉄道ジャーナル』2006年3月号 122 - 127頁　鉄道ジャーナル社

関連項目

高速鉄道
高速新線
アルプトランジット計画
トレニタリア
フェッロヴィーエ・デッロ・スタート
ペンドリーノ
フレッチャロッサ
TGV

外部リンク

公式サイト
Lyon Turin Ferroviaire
GEIE-BBT Brenner Basistunnel
Stretto di Messina
AlpTransit.ch
* Eurostar Italia Alta Velocità

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