ホシザキユキノシタ

ホシザキユキノシタ（星咲雪ノ下）

ホシザキユキノシタは、ユキノシタ科ユキノシタ属に分類される多年草です。一般的に見られるユキノシタの変種または品種とされ、茨城県の筑波山でのみ生育する固有種です。この希少性から、つくば市の花として選ばれ、市の天然記念物にも指定されています。

特徴

最も特徴的なのは、その花の形です。通常のユキノシタは下側の2枚の花弁が長く伸びるのに対し、ホシザキユキノシタではこれらの花弁が短く、上側の3枚の花弁とほぼ同じ長さで、幅も狭いのが特徴です。極端な場合、下側の花弁は退化して雄しべとなり、他の雄しべと共に星形に見える独特な花を形成します。花の色は白から淡い紅色で、可憐な印象を与えます。開花時期は5月下旬から6月にかけてで、花が咲いていない時期には、通常のユキノシタと区別することが困難です。

上側の3枚の花弁は卵形で、長さは1.5～2.5cm程度、赤い斑点が見られます。先端は鋭く尖り、基部は円形または広いくさび形で、黄色い斑点があります。雄しべは12本あり、葯（やく）の先端はわずかに突き出ています。草丈は20～50cmで、一般的なユキノシタと同程度です。

ホシザキユキノシタは繁殖力が強く、筑波山神社の石垣に移植された個体はよく活着します。しかし、一方で、自然環境での個体数は減少傾向にあり、保護が必要な状況です。

命名と由来

命名者は、原寛または牧野富太郎のいずれかとされています。原による命名は1924年、牧野による命名は1926年とされています。両者はホシザキユキノシタの分類について見解が異なり、原はユキノシタの品種としましたが、牧野はより上位の変種としました。

名前の由来は、その特徴的な花の形にあります。花弁と雄しべが星のように見えることから、「星咲」の名が付けられました。

学名

学名は、変種とする立場からはSaxifraga stolonifera Meeb. var. aptera Makino、品種とする立場からはSaxifraga stolonifera Meeb form aptera (Makino) H. HaraまたはSaxifraga stolonifera Curtis f. aptera (Makino) H. Haraとされています。

発見と生育地

筑波山は古くから植物学者の関心を集めており、多くの新種が発見されてきました。ホシザキユキノシタもその一つで、松本荒次郎によって筑波山の女体山の岩壁で発見・採集されました。発見は1924年のことです。その後、一時的に絶滅したと思われましたが、1959年に木村義明が男体山の石垣で群落を発見し、現在に至ります。現在では、男体山だけでなく、筑波山神社でもその姿を見ることができます。

人間との関わり

1988年につくば市の天然記念物に指定され、登録名称はひらがな表記の「ほしざきゆきのした」です。管理者は筑波山神社となっています。また、1997年にはつくば市の市制施行10周年を記念し、市の花に選定されました。

しかし、その希少性から、1997年には茨城県のレッドリストで「危急種」、2011年には「絶滅危惧IA類」に指定されており、絶滅の危機に瀕しています。これは、「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い」ことを意味します。

昭和天皇は、筑波山を登山した際にホシザキユキノシタに強い興味を示されたと伝えられています。また、2000年には、天皇皇后両陛下が茨城県自然博物館を訪問された際、ホシザキユキノシタの標本をご覧になり、皇后が「星のような花でした」と感想を述べられたというエピソードも残っています。

脚注

1. 茨城県『茨城における絶滅のおそれのある野生生物（植物編）』茨城県、2011年、54pp.
2. 茨城新聞社 編『茨城県大百科事典』茨城新聞社、1981年10月8日、1099pp.
3. 小幡和男（2001）"天皇皇后両陛下もご覧になったホシザキユキノシタ"自然博物館ニュース A・MUSEUM（ミュージアムパーク茨城県自然博物館）.27:4.
4. 学園都市の自然と親しむ会 編『筑波山 つくばの自然誌 I』STEP、1992年5月20日、150pp. ISBN 4-915834-12-3
5. 御所見直好『振りかえる ふるさと山河の花 第二巻』日貿出版社、2001年6月10日、343pp. ISBN 4-8170-8052-3
6. 菅谷政司・小幡和男・倉持眞寿美・久松正樹・高橋淳・池澤広美・小池渉 編『茨城県自然博物館第1次総合調査報告書―筑波山・霞ヶ浦を中心とする県南部地域の自然―』ミュージアムパーク茨城県自然博物館、平成10年3月28日、349pp.
7. 鈴木昌友『茨城の植物』茨城新聞社、昭和45年7月1日、490pp.
8. つくば市『第3次つくば市総合計画 後期基本計画』つくば市市長公室、平成22年3月、229pp.
9. 前田信二『ネイチャーガイド 筑波山の自然図鑑』メイツ出版、2009年4月20日、183pp. ISBN 978-4-7804-0618-4
10. 山崎睦男『茨城の天然記念物―緑の憩いをたずねて―』暁印書館、2002年7月15日、253pp. ISBN 4-87015-148-0

関連項目

ヒメハルゼミ
筑波実験植物園
水郷筑波国定公園

外部リンク

ホシザキユキノシタ::おすすめコンテンツ≫植物図鑑（国立科学博物館筑波実験植物園）
GKZ植物事典・ホシザキユキノシタ
米倉浩司・梶田忠 （2003-）「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList)

もう一度検索