ホセ・ナポレス
ホセ・ナポレス（José Ángel Nápoles）は、1940年4月13日にキューバのサンティアーゴ・デ・クーバで生を受け、2019年8月16日に79歳でその生涯を閉じたプロボクサーです。柔らかな身体と流れるような動きから「マンテキーリャ」（スペイン語で「バター」の意）と称され、ボクシング史に名を刻む存在となりました。WBAおよびWBCの世界ウェルター級王座を二度獲得し、合計13度に及ぶ防衛を成功させた偉大なチャンピオンです。
極貧の家庭に育ったナポレスは、幼い頃からストリートファイトで家計を助ける日々を送りました。故郷の英雄、キッド・ギャビランに憧れ、ボクサーへの道を志します。バスの運転手として働きながらアマチュアキャリアを積み、1954年にはサンティアゴのゴールデン・グローブを獲得。アマチュアでは驚異的な113勝1敗という記録を残し、1958年8月2日、バンタム級でプロデビュー。フリオ・ロハスを初回KOに葬り、鮮烈なスタートを切りました。
プロとしてのキャリアは順調に進むかに見えましたが、1961年にキューバ革命が勃発し、プロスポーツが全面禁止となります。これを機に、ナポレスは身重の妻を残して単身メキシコへの亡命を決意しました。
メキシコに移ってからも、ナポレスはその才能を発揮し、二度の判定負けを除けば連勝街道を突き進みます。この中には、後に世界ジュニアウェルター級王者となるカルロス・エルナンデスを破った試合も含まれます。1963年にはジュニアウェルター級で世界ランキング入りを果たし、翌1964年には世界1位にまで上り詰めました。しかし、当時のライト級王者カルロス・オルチスやジュニアウェルター級王者サンドロ・ロポポロといったチャンピオンたちは、ナポレスの圧倒的な強さを警戒し、対戦を回避する傾向にありました。指名挑戦試合の制度がなかった時代背景もあり、ナポレスは世界挑戦の機会をなかなか得られない状況が続きました。
この間、1964年3月1日には初来日を果たしています。シュガー・ラモス対関光徳の世界タイトルマッチの前座で、当時世界ランキング10位だった吉本武輝と対戦。試合は開始早々の初回KO勝ちに終わります。吉本のセコンドを務めていた名トレーナー、エディ・タウンゼントは、リングを降りて振り返った時には吉本が倒れていた、と語るほどあっけない幕切れでした。
1967年にはウェルター級でも世界1位に躍り出ますが、当時の王者エミール・グリフィスもやはりナポレスとの対戦を避けました。しかし、グリフィスがミドル級へ転向し王座が空位となったことで、技巧派のカーチス・コークスがナポレスとのタイトルマッチを快諾。ついにナポレスにとって待ち望んだ世界挑戦のチャンスが訪れました。1969年4月18日に行われたタイトル戦で、ナポレスは長身のコークスに対し、鋭いジャブを的確にヒットさせ、コークス得意のストレートを巧みにかわしながらパンチを正確に打ち込みました。一方的な展開となり、コークスの顔面は無残に変形。13回終了TKO勝ちで、ナポレスは29歳にして念願の世界ウェルター級王座（WBA・WBC）を獲得しました。
同年6月29日には、初防衛戦でコークスを再び破り、続くエミール・グリフィスやアーニー・ロペスといった強敵を退けて、三度の防衛に成功しました。しかし、1970年12月3日に行われたビリー・バッカスとの四度目の防衛戦で、偶然のバッティングにより左目上を深くカット。試合続行不可能となり、4回負傷KO負けで王座から陥落してしまいます。
それでもナポレスは諦めませんでした。翌1971年6月4日、因縁の相手バッカスと再戦。今度はナポレスが圧倒し、8回KO勝利を収めてWBA・WBC王座を奪還しました。その後も、技巧派ヘッジモン・ルイス、強打者アドルフ・プルート、そして再びアーニー・ロペスなど、錚々たる強豪を相手に防衛を重ねていきました。1972年11月には再度日本を訪れ、和歌山で東洋太平洋チャンピオン龍反町と2ラウンドのエキシビションマッチを行い、日本のボクシングファンにその卓越したテクニックの一端を披露しました。
1974年2月9日、ナポレスはパリでカルロス・モンソンが保持するWBA・WBC世界ミドル級王座に挑戦しました。しかし、ウェルター級よりも上の階級でのモンソンの強打はナポレスを捕らえ、7回開始のゴングに応じることができずKO負け。二階級制覇は成りませんでした。同年8月3日には、ニューヨーク州認定世界ウェルター級王者だったヘッジモン・ルイスとの統一戦を行い、9回TKO勝ちを収めています。
1975年5月14日、ナポレスはWBA世界ウェルター級王座を返上しました。同年7月12日に行われたアルマンド・ムニスとの再戦に判定で勝利し、WBC王座の連続防衛記録を10回に伸ばしました。しかし、同年12月6日、イギリスのジョン・H・ストレーシーの猛攻の前に屈し、6回KO負けでWBC王座を失います。この試合を最後に、ナポレスは現役を引退しました。
引退後のナポレスは、一時キューバ音楽のバンド活動などで生計を立てていた時期もありましたが、最終的にはWBCの支援により、メキシコ北部のシウダー・フアレスで若いボクサーたちの指導にあたるトレーナーとなりました。晩年は糖尿病やアルツハイマー病を患い、メキシコシティに移って療養生活を送っていました。そして2019年8月16日、メキシコシティ市内の病院にて79歳で亡くなりました。
ナポレスのボクシングスタイルは、そのニックネーム「マンテキーリャ」が示すように、非常に滑らかで流麗でした。相手のパンチを最小限の動きでかわす「見切り」に長け、柔軟な身体を駆使して防御から攻撃、あるいは攻撃から防御へとスムーズに切り替える技術は他の追随を許しませんでした。低いガードから鋭いステップインで間合いを詰め、正確なジャブをヒットさせます。小刻みなフットワークで位置を変えつつ、相手のパンチをヘッドスリップで外しざまにインファイトに持ち込み、素早く正確な連打を放ちました。彼のパンチは体重がしっかりと乗っており、強烈でありながらミスブローが極めて少ないという特徴がありました。
プロキャリア通算成績は84戦76勝（54KO）8敗です。
極貧の家庭に育ったナポレスは、幼い頃からストリートファイトで家計を助ける日々を送りました。故郷の英雄、キッド・ギャビランに憧れ、ボクサーへの道を志します。バスの運転手として働きながらアマチュアキャリアを積み、1954年にはサンティアゴのゴールデン・グローブを獲得。アマチュアでは驚異的な113勝1敗という記録を残し、1958年8月2日、バンタム級でプロデビュー。フリオ・ロハスを初回KOに葬り、鮮烈なスタートを切りました。
プロとしてのキャリアは順調に進むかに見えましたが、1961年にキューバ革命が勃発し、プロスポーツが全面禁止となります。これを機に、ナポレスは身重の妻を残して単身メキシコへの亡命を決意しました。
メキシコに移ってからも、ナポレスはその才能を発揮し、二度の判定負けを除けば連勝街道を突き進みます。この中には、後に世界ジュニアウェルター級王者となるカルロス・エルナンデスを破った試合も含まれます。1963年にはジュニアウェルター級で世界ランキング入りを果たし、翌1964年には世界1位にまで上り詰めました。しかし、当時のライト級王者カルロス・オルチスやジュニアウェルター級王者サンドロ・ロポポロといったチャンピオンたちは、ナポレスの圧倒的な強さを警戒し、対戦を回避する傾向にありました。指名挑戦試合の制度がなかった時代背景もあり、ナポレスは世界挑戦の機会をなかなか得られない状況が続きました。
この間、1964年3月1日には初来日を果たしています。シュガー・ラモス対関光徳の世界タイトルマッチの前座で、当時世界ランキング10位だった吉本武輝と対戦。試合は開始早々の初回KO勝ちに終わります。吉本のセコンドを務めていた名トレーナー、エディ・タウンゼントは、リングを降りて振り返った時には吉本が倒れていた、と語るほどあっけない幕切れでした。
1967年にはウェルター級でも世界1位に躍り出ますが、当時の王者エミール・グリフィスもやはりナポレスとの対戦を避けました。しかし、グリフィスがミドル級へ転向し王座が空位となったことで、技巧派のカーチス・コークスがナポレスとのタイトルマッチを快諾。ついにナポレスにとって待ち望んだ世界挑戦のチャンスが訪れました。1969年4月18日に行われたタイトル戦で、ナポレスは長身のコークスに対し、鋭いジャブを的確にヒットさせ、コークス得意のストレートを巧みにかわしながらパンチを正確に打ち込みました。一方的な展開となり、コークスの顔面は無残に変形。13回終了TKO勝ちで、ナポレスは29歳にして念願の世界ウェルター級王座（WBA・WBC）を獲得しました。
同年6月29日には、初防衛戦でコークスを再び破り、続くエミール・グリフィスやアーニー・ロペスといった強敵を退けて、三度の防衛に成功しました。しかし、1970年12月3日に行われたビリー・バッカスとの四度目の防衛戦で、偶然のバッティングにより左目上を深くカット。試合続行不可能となり、4回負傷KO負けで王座から陥落してしまいます。
それでもナポレスは諦めませんでした。翌1971年6月4日、因縁の相手バッカスと再戦。今度はナポレスが圧倒し、8回KO勝利を収めてWBA・WBC王座を奪還しました。その後も、技巧派ヘッジモン・ルイス、強打者アドルフ・プルート、そして再びアーニー・ロペスなど、錚々たる強豪を相手に防衛を重ねていきました。1972年11月には再度日本を訪れ、和歌山で東洋太平洋チャンピオン龍反町と2ラウンドのエキシビションマッチを行い、日本のボクシングファンにその卓越したテクニックの一端を披露しました。
1974年2月9日、ナポレスはパリでカルロス・モンソンが保持するWBA・WBC世界ミドル級王座に挑戦しました。しかし、ウェルター級よりも上の階級でのモンソンの強打はナポレスを捕らえ、7回開始のゴングに応じることができずKO負け。二階級制覇は成りませんでした。同年8月3日には、ニューヨーク州認定世界ウェルター級王者だったヘッジモン・ルイスとの統一戦を行い、9回TKO勝ちを収めています。
1975年5月14日、ナポレスはWBA世界ウェルター級王座を返上しました。同年7月12日に行われたアルマンド・ムニスとの再戦に判定で勝利し、WBC王座の連続防衛記録を10回に伸ばしました。しかし、同年12月6日、イギリスのジョン・H・ストレーシーの猛攻の前に屈し、6回KO負けでWBC王座を失います。この試合を最後に、ナポレスは現役を引退しました。
引退後のナポレスは、一時キューバ音楽のバンド活動などで生計を立てていた時期もありましたが、最終的にはWBCの支援により、メキシコ北部のシウダー・フアレスで若いボクサーたちの指導にあたるトレーナーとなりました。晩年は糖尿病やアルツハイマー病を患い、メキシコシティに移って療養生活を送っていました。そして2019年8月16日、メキシコシティ市内の病院にて79歳で亡くなりました。
ナポレスのボクシングスタイルは、そのニックネーム「マンテキーリャ」が示すように、非常に滑らかで流麗でした。相手のパンチを最小限の動きでかわす「見切り」に長け、柔軟な身体を駆使して防御から攻撃、あるいは攻撃から防御へとスムーズに切り替える技術は他の追随を許しませんでした。低いガードから鋭いステップインで間合いを詰め、正確なジャブをヒットさせます。小刻みなフットワークで位置を変えつつ、相手のパンチをヘッドスリップで外しざまにインファイトに持ち込み、素早く正確な連打を放ちました。彼のパンチは体重がしっかりと乗っており、強烈でありながらミスブローが極めて少ないという特徴がありました。
プロキャリア通算成績は84戦76勝（54KO）8敗です。
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