ボアル

ボアル（Bo’al）

ボアル（生年不詳 - 没年不詳）は、チンギス・カンの長男ジョチの息子であり、モンゴル帝国の皇族の一人です。ペルシア語史料『集史』では「بوالBūāl」と記されています。特に、ジョチ・ウルスの有力諸侯として知られるノガイの祖父にあたる人物です。

概要

『集史』の「ジョチ・ハン紀」によると、ボアルはジョチの七男として記録されていますが、具体的な活動に関する記述は多くありません。父ジョチや兄バトゥの遠征に従い、キプチャク草原にウルス（領地）を形成したと考えられています。ボアルとその子孫は、ジョチ・ウルスの中で右翼に所属し、勢力を持っていました。

モンケ・カアンの治世下で西アジア遠征が計画された際、ボアルの次男ミンカダルの長男であるトカルがジョチ・ウルス右翼の代表として、オルダの息子のクリが左翼の代表として、シバンの息子のバラカンが中央軍の代表として、フレグの指揮下に入りました。しかし、モンケ・カアンの急死後、フレグがイランで自立の動きを見せると、カフカス地方の権益を巡り、ジョチ・ウルスとの対立が表面化しました。

ジョチ・ウルスから参戦していたバラカンは、呪術を行ったという告発により処刑され、トカルとクリも相次いで亡くなったため、当時のジョチ・ウルスの君主ベルケは彼らが毒殺されたのではないかと疑い、ジョチ・ウルスとフレグ・ウルスとの間で戦いが始まりました。

この時、ジョチ・ウルスからはボアルの長男タタルの息子、すなわちトカルの従兄弟にあたるノガイが3万騎を率いて先鋒として派遣され、奮戦し大きな功績を挙げました。ノガイは、この戦いをきっかけに数々の戦いで功績を重ね、「ジョチ・ウルス右翼」を代表する人物としてその地位を高めていったのです。

ボアル家系図

[ジョチ]
ボアル(Bo’al ＞بوال/būāl)
タタル(Tatar ＞تاتار/tātār)
[ノガイ]
チュケ(Čekke ＞جکه/jaka)
カラ・ケセク(Qara keseg ＞قارا کیساک/qārā kīsāk)
テケ(Tekke ＞تکه/taka)
トライ(Torai ＞تورای/tūrāy)
ミンカダル(Mingqadar ＞مینکقدار/mīnkqadār)
トカル(Toqar ＞توقار/tūqār)
クルディ・ブカ(Kürdi buqa ＞کوردی بوقا/kūrdī būqā)
ベクドゥズ(Begdüs ＞باکدوز/bākdūz)
オロス(Čimbai ＞جیمبای/jīmbāy)
トゥデゲン(Tüdegen ＞توداقان/tūdākān)
グトゥル・バイ(Qutlu bai ＞قوتلو بای/qūtlū pāy)
エブゲン(Ebügen ＞ابوکان/abūkān)
トクチュ(Tuquč ＞توقوج/tūqūj)
アフマド(Amad ＞جیمبای/aḥmad)
ウズベク(Özbeg ＞اوزباک/ūzbāk)
サスク(Sasiγ ＞ساسیق/sāsīq)
イト＝バサル(Id basar ＞یت باسار/īt bāsār)

15世紀初頭に編纂された『ムイーン史選』には、オルダ・ウルスの君主サシ・ブカをノガイの息子とする記述がありますが、ドニエプル川からドナウ川一帯の西方右翼ウルスを根拠地とするノガイの息子が、東方左翼ウルス（オルダ・ウルス）の当主になるというのは不自然であるため、研究者の間では「サシ・ブカはボアル-ノガイ家の出身である」という説は支持されていません。

参考文献

赤坂恒明『ジュチ裔諸政権史の研究』風間書房、2005年
北川誠一「ジョチ・ウルスの研究 1 ―「ジョチ・ハン紀」訳文 1」『ペルシア語古写本史料精査によるモンゴル帝国の諸王家に関する総合的研究』 文部省科学研究費補助金研究成果報告書 総合研究(A)、（科研費課題番号 05301045） 1993年 - 1995年
北川誠一「ジョチ・ウルスの研究 2 ―「ジョチ・ハン紀」訳文 2」『史朋』30号、1998年3月
* 『新元史』巻110列伝7

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