新元史

『新元史』は、中華民国成立後の1919年に、柯劭忞によって編纂された元朝の紀伝体歴史書です。柯劭忞は、『清史稿』の編纂にも携わった人物であり、その知識と経験を活かして、『新元史』を完成させました。

従来の『元史』は、明朝の建国後に短期間で編纂されたため、内容に多くの不備がありました。特に、初代皇帝である洪武帝の意向が強く反映され、モンゴルに関する記述が軽視されたり、事実が歪曲されたりするなどの問題点が指摘されていました。そのため、早くから『元史』の改訂を求める声が上がり、清代には多くの学者によって『元史』の校訂や補完作業が行われました。邵遠平の『元史類編』、銭大昕の『元史氏族表』、洪鈞の『元史訳文証補』、屠寄の『蒙兀児史記』などがその成果です。しかし、これらの研究が進むにつれて、元朝が広大なモンゴル帝国の一部であり、その歴史を正確に理解するためには、モンゴルやイスラム世界などの史料も参照する必要があることが明らかになってきました。

こうした背景を踏まえ、『新元史』は、従来の『元史』の不備を補うだけでなく、『元朝秘史』やラシードゥッディーンの『集史』といった新たな史料も参照して、より正確な元朝の歴史を記述しようと試みました。1921年には、当時の中華民国大総統であった徐世昌によって正史として認められ、従来の二十四史を「二十五史」と改めることとなりました。これにより、『新元史』は、中国の正史として正式に認められることとなりました。

しかしながら、『新元史』もまた、完全なものではありませんでした。従来『元史』を改訂・増補した部分について、その根拠が明らかでなかったり、原資料からの誤った引き写しが多かったりと、細部の誤りや不備が指摘されました。そのため、1930年には重訂が行われ、柯劭忞自身も『新元史考証』（58巻）を著して、その根拠について解説しました。ただし、この考証においても、十分に説明されていない部分が残っていると指摘されています。

『新元史』の構成は、以下の通りです。

本紀、26巻
表、7巻
志、70巻
列伝、154巻

『新元史』は、元朝の歴史を研究する上で重要な史料の一つであり、その編纂の経緯や内容、後世の評価などを理解することは、元朝の歴史をより深く理解するための重要な要素となります。

参考文献

国学導航－新元史
新元史iPaper版 上：（1巻/本紀1 - 111巻/列伝15）、下：（112巻/列伝16 - ）（簡体字中国語）

関連項目

* 二十六史

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