ボクスホール・フィレンザ

ボクスホール・フィレンザ：希少なクーペの系譜

1971年5月から1975年にかけて、イギリスの自動車メーカー、ボクスホールはヴィヴァをベースとしたクーペスタイルの2ドア車、フィレンザを製造しました。ファストバックスタイルのボディが特徴的なこの車は、当初1.2Lから2.0Lの直列4気筒エンジンを搭載し、スポーティな走りを提供しました。1971年12月には、エンジン排気量を拡大し、よりパワフルなモデルもラインナップに加わりました。

高性能モデル「2300スポートSL」

フィレンザの中でも特に注目を集めたのが、1972年初めに登場した「2300スポートSL」です。ジュネーヴ・モーターショーで発表されたこのモデルは、2.3Lエンジンを搭載し、122bhpという当時の高出力を実現。7眼メーターや豪華なセンターコンソールなど、充実した装備も魅力でした。ディーラー・チーム・ボクスホールがレース活動に参戦したことで、その高い性能は広く知られることとなりました。

革命的なスタイリング：ドループスヌート

1973年には、フィレンザの過激なモデル「ドループスヌート」が登場しました。空力性能を重視した特徴的なフロントデザインが最大の特徴で、GRP製のノーズに埋め込まれたヘッドライトは、当時としては斬新なスタイルでした。オリジナルのフィレンザは「マグナム・クーペ」と改名され、ドループスヌートはフィレンザの名を冠して販売されました。

ドループスヌートは、2.3LのOHCエンジンを搭載し、ブライデンスタイン・レーシングが開発したパーツにより、131bhpの高出力を実現。連装キャブレターやハイリフト・カムシャフト、3本出しマフラーなどの装備も、その性能の高さを示しています。さらに、当時としては異例な低Cd値を実現するボディデザインや、パンク時にも安全性を確保するエイヴォン・セーフティホイールなど、革新的な技術が採用されました。

生産と販売

しかし、ドループスヌートの販売は予想を大きく下回りました。オイルショックによるガソリン価格の高騰や、生産上の問題が重なったことが原因です。最終的な生産台数はわずか204台となり、その希少性から現在ではコレクターアイテムとして高い人気を誇っています。

モータースポーツでの活躍とデザインへの影響

フィレンザはモータースポーツでも活躍し、ゲーリー・マーシャルなどのトップドライバーがドライブするレース車両として知られました。その空力特性とスタイリングは、後のボクスホール車であるシヴェット、キャヴァリエ、カールトンなどのデザインに影響を与えました。また、フォードのエスコートMk II RS2000やシエラなどにもそのデザインが反映されていることから、ドループスヌートは1970年代のデザイントレンドに大きな影響を与えたと言えるでしょう。

まとめ

ボクスホール・フィレンザ、特に「ドループスヌート」は、その独特のスタイリングと高い性能、そして希少性から、現在でも多くの自動車ファンを魅了する名車です。短い生産期間にもかかわらず、モータースポーツでの活躍や後のモデルへのデザイン的影響は、その存在感を示しています。生産台数の少なさは、販売戦略の失敗や時代の状況によるものですが、皮肉にもそれが希少価値を高め、伝説的な存在へと押し上げました。 生産台数が少なかったこと、そして独特のスタイリングは、今日でもフィレンザを非常に魅力的な車にしているのです。

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