ボストチヌイ宇宙基地

ボストチヌイ宇宙基地（ロシア語: Космодром Восточный、英語: Vostochny Cosmodrome）は、ロシア連邦が極東地域に建設・運用する、国内の宇宙開発における重要なロケット発射施設です。

立地と施設

この基地は、アムール州のウグレゴルスク市街地の南、スヴォボードヌイ市街地の北に位置しており、かつて財政難から廃止されたスヴォボードヌイ宇宙基地の跡地を再利用しています。基地内には、ソユーズ2型ロケットとアンガラ型ロケットに対応する二つの発射施設が整備される計画・建設が進められています。交通の便にも配慮されており、シベリア横断鉄道のレデャーナヤ駅が近くにあるほか、M58国道（チタ〜ハバロフスク間）も通っているため、特に太平洋側からの輸送経路が確保されており、資材やロケット構成要素の搬入に有利な地理的条件を備えています。

建設の背景

ボストチヌイ宇宙基地の建設は、ソビエト連邦の崩壊が大きな契機となりました。崩壊後、ロシアの主要な宇宙打ち上げ拠点であったバイコヌール宇宙基地がカザフスタンの領土となったため、ロシアは基地の利用に対して年間1億1500万ドルという高額な使用料をカザフスタンに支払う必要に迫られました。加えて、近年にはプロトンロケットの打ち上げ失敗などが相次ぎ、バイコヌール基地への依存に対する国内・国際的な懸念が高まる状況も生まれました。こうした背景から、ロシア自身の宇宙開発における独立性と安全保障を強化するため、国内に新たな主要宇宙拠点を設けることが国家的な課題となり、スヴォボードヌイ宇宙基地の跡地を活用してボストチヌイ基地を建設することが決定されました。

計画と役割

ボストチヌイ宇宙基地は、ロシア国内からのロケット打ち上げ全体の約45%を担う中核施設となることが期待されています。特に重要な計画として、2020年からはバイコヌールから有人宇宙船の打ち上げ機能が全面的に移管される予定でした。これにより、将来的にはバイコヌールからの打ち上げ比率を、従来の65%から大幅に削減し、約11%程度にまで引き下げることが目標とされています。

建設過程と課題

基地建設にあたっては、ロシアがこれまでに国際協力で培った経験が活かされています。例えば、南米にあるギアナ宇宙センターにロシアの技術協力で建設されたソユーズロケット発射台の経験や、韓国の羅老宇宙センターでの経験が設計や建設に反映されています。また、建設コストを削減するため、バイコヌール基地に見られるような大規模な防衛関連の軍事施設は設置しない方針が取られました。

当初の計画では、2015年に最初の無人ロケット打ち上げ、2018年に有人宇宙船打ち上げ、そして基地全体の完全完成も2018年が目標とされていました。しかし、予算配分を巡る関係者間の対立などから、着工の遅れが報じられるなど、計画通りの進捗に懸念が生じました。実際に、大型ロケット向けの打ち上げ施設などは完成が遅れている状況が伝えられています。

建設期間中には、労働環境に関する深刻な問題も発生しました。2015年4月には、建設会社からの給与支払いが数ヶ月にわたり滞っていることが明らかになり、多くの労働者が職場放棄やハンガー・ストライキに訴える事態に発展しました。また、基地建設に関連する不正支出も大規模に発覚し、総額約110億ルーブルを超える被害が確認され、2019年には関係者58名が有罪判決を受けるなど、組織的な腐敗も問題視されました。

実績と近年の利用

計画の遅延はありましたが、無人ロケットの打ち上げは2018年までに複数回実施されています。特に、基地の歴史における重要な一歩として、2016年4月28日には第1号となるソユーズ2.1aロケットの打ち上げが行われました。この記念すべき打ち上げは、当時のプーチン大統領が現地に視察に訪れる中で実施され、搭載された人工衛星の軌道投入は成功しました。

近年では、国際的な外交の舞台としても注目されています。2023年9月13日には、北朝鮮の金正恩総書記がこの基地を訪問し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との首脳会談の会場となりました。

ボストチヌイ宇宙基地は、これらの経緯を経て、ロシアが自国の宇宙開発戦略を推進し、国際的なプレゼンスを示す上で、今後も重要な役割を担う拠点として位置づけられています。

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