ボチョウジ属

ボチョウジ属（Psychotria）

ボチョウジ属（学名：Psychotria）は、リンドウ目アカネ科に属する植物のグループです。この属には非常に多くの種が含まれており、その数は樹木を含む植物の属の中でも最大級の一つとされています。世界の熱帯から亜熱帯地域にかけて広く分布しています。

特徴

本属の植物は、主に直立性の低木から小高木ですが、一部には他のものに這い上がるつる植物となる種も存在します。

葉は茎に対になってつく対生（たいせい）で、葉柄（ようへい）の間に托葉（たくよう）が見られ、これはしばしば互いにくっついて一体となっています。葉の質は革のようにしっかりとしており、縁には切れ込みがなく滑らかです。

花は茎の先端に、集散花序（しゅうさんかじょ）または円錐花序（えんすいかじょ）と呼ばれる集まりで咲くのが一般的で、個々の花は小さい傾向があります。萼（がく）は短い筒状で、先端は5つの歯に分かれますが、この歯は開花後比較的早く落ちてしまいます。花冠（かかん）は基部がまっすぐな花筒（かとう）を作り、先端は通常5つに裂けますが、まれに4つや6つに裂ける例もあります。雄しべは花冠の裂片と同じ数だけあり、花筒の内側についています。花糸（かし）は通常短く、葯（やく）は細長い形で、花筒からわずかに突き出ます。子房（しぼう）は2つの部屋に分かれており、それぞれの部屋に胚珠（はいしゅ）が一つずつ収まっています。

果実はあまり大きくならず、形は球形から卵円形など様々です。果肉が柔らかい液果（えきか）となる傾向があり、その中に2個の硬い核を含んでいます。それぞれの核には1個の種子が入っており、種子の形は片面が平たく、もう片面が盛り上がるか、あるいは稜（りょう）を持つことが多いです。

分類と多様性

ボチョウジ属は、植物分類学においてその種数の多さと多様性、そして分類の複雑さで知られています。文献によって含まれる種数は異なり、かつては500種程度とされていたものが、研究が進むにつれて700種、800種、あるいは2000種近くに達すると報告されるなど、見解に幅があります。その種の多様性と分類学的な整理の難しさから、「途方に暮れる」と表現されることもあります。多くの地域でこの属の研究はまだ十分に進んでいない現状があります。

近年の分類研究では、遺伝子情報なども用いられており、ボチョウジ属が側系統（ある系統群から派生した一部のグループを含まない系統）であるか、あるいは多系統（互いに近縁でない複数のグループが人為的にまとめられている系統）である可能性が指摘されています。例えば、アリ植物として知られ、形態的には明らかに区別できるヒドノフィツム属（Hydnophytum）が、分子系統解析の結果、ボチョウジ属の系統の内部に含まれてしまうことが明らかになりつつあります。このような状況から、ボチョウジ属と近縁の属の間で、今後、属の統合や細分といった分類体系の大きな変更が行われる可能性が高いと考えられています。

学名の由来と初期の記載

属の学名である Psychotria は、ギリシャ語の「psyche」（生命）と「trepho」（保つ）に由来するとされています。これは、本属に薬用として利用される種が含まれることにちなんでいると言われています。

ボチョウジ属が学術的に初めて記載されたのは、1759年にスウェーデンの分類学者カール・フォン・リンネによる著書『自然の体系』第10版においてです。この時、Psychotria 属として掲載されたのは Psychotria asiatica、すなわち日本などにも自生するボチョウジただ1種のみでした。その後、多くの植物学者によって世界中の多様な種がこの属に分類されていくことになります。

世界の分布と代表種

ボチョウジ属は、アジア、アフリカ、アメリカ、オセアニアなど、世界の熱帯から亜熱帯にかけて非常に広範に分布しています。各地で多様な種が生育しており、形態や生態も様々です。

日本には、ボチョウジ（Psychotria asiatica）、ナガミボチョウジ（P. manillensis）、オガサワラボチョウジ（P. homalosperma）、つる性のオオシラタマカズラ（P. boninensis）、シラタマカズラ（P. serpens）の5種が知られています。これらは低木性のものと高木になるもの、そしてつる性のものがあり、形態の多様性が見られます。

アジア（日本以外）では、ミャンマーからマレー半島、ジャワ島、ボルネオ島などに見られるクロタマノキ（P. angulata）や、ベトナム、マレー半島、ボルネオ島に分布するケシラタマ（P. ovoidea）などが知られています。

アフリカ、特にケニアには多くの種が分布しており、IUCN（国際自然保護連合）のレッドリストで危急種（Vulnerable）や絶滅危惧種（Endangered）と評価されている種も複数存在します。例えば、ケニアのタイタ・ヒルズ固有種であるPsychotria petitiiは絶滅危惧種とされています。形態も低木から高木まで多様で、Psychotria punctataのように複数の変種を持つ種もあります。

アメリカ大陸にも多くの種が分布しています。南米に産するサイコトリア・ヴィリディス（P. viridis）は、幻覚作用を持つDMT（ジメチルトリプタミン）という成分を含有しており、アマゾン地域の伝統的な幻覚剤であるアヤワスカの原料の一つとして利用されることで知られています。また、人間の唇のような鮮やかな赤い苞葉が特徴で「ホット・リップス」とも呼ばれるPsychotria poeppigianaは、近年の研究で別属のPalicourea tomentosaに分類されることが明らかになっています。

オセアニアのミクロネシア地域にも複数の種が分布しており、ヤップ島固有のヤツプボチヤウジ（P. arbuscula）や、コスラエ島固有のヒシミボチヤウジ（P. rhombocarpa）のように、島嶼固有種（とうしょこゆうしゅ）も見られます。マリアナ諸島やカロリン諸島にかけて広く分布するものや、特定の島にのみ見られる種などがあります。

人間による利用

学名の由来が示すように、ボチョウジ属には薬用として用いられる種がいくつか存在します。

前述のサイコトリア・ヴィリディス（P. viridis）は、その幻覚成分DMTを利用するため、アヤワスカの原料として南米の先住民やネオ・シャーマニズムの実践者によって用いられています。

アフリカのケニアでは、ディゴ族という民族が伝統的な薬としてボチョウジ属の植物を利用しています。例えば、Psychotria ambonianaの葉を煮出した液を赤子の頭痛に、Psychotria holtziiの葉を燃やした煙を子供の頭部の風邪に対して用いるといった報告があります。

また、強い吐き気をもたらす効果から薬用植物として世界的に利用されているトコン（吐根、Carapichea ipecacuanha）は、かつてPsychotria ipecacuanhaという学名で本属に含まれていましたが、現在は別の属に分類されています。

このように、ボチョウジ属は多様な形態、広範な分布、そして人類による様々な利用を背景に持つ、アカネ科の中でも特に注目される大きな属の一つと言えます。しかし、その分類学的な整理は未だ途上にあり、今後の研究によってその姿がより明確になっていくと考えられています。

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