ボビー・ハンフリー (ミュージシャン)

ボビー・ハンフリー

ボビー・ハンフリー（Bobbi Humphrey、1950年4月25日 - ）は、アメリカ合衆国出身のジャズ・フルート奏者であり、一部の楽曲ではボーカルも務めるアーティストです。アフリカ系アメリカ人の女性ジャズ奏者として、特に1970年代にファンクやR&Bを取り入れた独自のスタイルで人気を博しました。

若き才能の開花とニューヨークへ

テキサス州マーリンに生まれたボビー・ハンフリーは、ダラスで成長期を過ごしました。高校時代からフルート演奏に情熱を注ぎ始め、その才能を磨いていきます。南メソジスト大学に在学中、学内で開催されたタレント・コンテストを観覧していた著名なジャズトランペット奏者、ディジー・ガレスピーにその才能を見出されました。ガレスピーからの強い勧めを受け、彼女はジャズの中心地であるニューヨークでの活動を目指すことを決意し、1971年6月に上京しました。

ブルーノート時代：ジャズからファンクへの移行

ニューヨークに移り住んだボビー・ハンフリーは、レコーディング契約を求めて様々なレコード会社を訪ね歩きました。アトランティック・レコードなど複数の会社に断られた後、名門ブルーノート・レコードと契約を交わすことに成功します。彼女のステージネームである「ボビー」は、本名である「バーバラ」を短縮したもので、これは当時のブルーノートのプロデューサー、ジョージ・バトラーの発案によるものでした。

ブルーノート契約後まもなく、彼女は経験豊富なミュージシャンたちとの共演機会を得ます。1971年9月には、トランペット奏者リー・モーガンのセッションに参加し、その録音は後にアルバム『リー・モーガン・ラスト・アルバム』として発表されました。そして、リー・モーガンらをサイドメンバーに迎えて、そのおよそ2週間後には自身のデビューアルバム『フルート・イン』を録音しました。

初期の2作品、『フルート・イン』（1971年）と『ディグ・ジス』（1972年）は、ジョージ・バトラーのプロデュースのもと、比較的正統派のジャズスタイルを基調としていました。しかし、転機が訪れます。バトラーの秘書からドナルド・バードのアルバム『ブラック・バード』を勧められ、そのサウンドに深く感銘を受けたのです。このアルバムにも参加していたプロデューサーチーム、マイゼル兄弟との共同作業を通じて、ボビー・ハンフリーの音楽性は大きく変化します。より都会的で洗練された、ファンクやソウルジャズの要素を強く打ち出したサウンドへと移行していきました。

商業的成功と新たな道

音楽性の転換は、大きな商業的成功をもたらしました。1974年にリリースされたアルバム『ブラックス・アンド・ブルース』では、初めて自身でボーカルも担当し、Billboard 200チャートで84位を記録します。続くアルバム『サテン・ドール』（1974年）は、翌1975年にBillboard 200で30位、そしてビルボードのR&Bアルバム・チャートでは5位を記録する大ヒットとなりました。しかし、この成功の裏で、印税の支払いを巡る不満がブルーノートに対して生じます。商業的な成功にもかかわらず、十分な前払金が得られなかったことが原因で、最終的に彼女はエピック・レコードへの移籍を決断しました。

エピックに移籍後も、他のアーティストとの交流は続きました。以前から親交のあったスティーヴィー・ワンダーの歴史的名盤『キー・オブ・ライフ』（1976年）収録曲「アナザー・スター」にゲストとして参加しています。後に、スティーヴィー・ワンダー自身もボビー・ハンフリーのアルバム『フリースタイル』（1978年）収録曲「ホームメイド・ジャム」のレコーディングに協力するなど、互いに影響を与え合いました。

エピックからは計3枚のアルバムを発表しましたが、1980年代に入ると、ライブ活動は続けたものの、アルバム制作は一時的に停滞します。この時期の作品は、1980年代末にマラコ・レコードからリリースされた『シティ・ビート』のみとなりました。

現在と影響

1994年には、自身の設立したレーベル「パラダイス・サウンズ」からアルバム『Passion Flute』をリリースし、創作意欲が衰えていないことを示しました。また、現代の音楽シーン、特にヒップホップにおけるサンプリング文化においても、彼女の楽曲は重要なソースとなっています。2002年には、かつて自身の楽曲をサンプリングしたことがあるラッパー、コモンのアルバム『エレクトリック・サーカス』にゲスト参加し、世代やジャンルを超えた繋がりを見せました。

ボビー・ハンフリーは、ジャズの素養を持ちながらも、柔軟に時代やジャンルの要素を取り入れ、ジャズ・ファンクという分野を切り開いた先駆者の一人です。その流麗なフルート演奏は多くの人々を魅了し、今日に至るまで影響を与え続けています。

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