ボワルセル

ボワルセル：エプソムダービー王者とセントサイモン系中興の祖

ボワルセル(Bois Roussel)は、1930年代後半、競馬界にその名を刻んだフランスの競走馬にして、成功した種牡馬です。名繁殖牝馬プラッキーリエージュの晩年の産駒として、1938年のエプソムダービーを制覇するという快挙を成し遂げました。その活躍は、競走馬としての輝かしいキャリアにとどまらず、種牡馬としても大きな成功を収め、現代競馬にも影響を与え続ける血統の礎を築いたのです。

遅咲きの競走馬デビューとエプソムダービー制覇

ボワルセルは、比較的遅い時期に競走馬デビューを果たしました。1938年4月、フランスのロンシャン競馬場で行われたジュイーニュ賞(2100メートル)で初陣を飾り、見事優勝。この鮮やかな勝利がイギリスの馬主、ピーター・ビーティの目に留まりました。交渉の末、高額で取引が成立し、ボワルセルはイギリスへと渡ります。

ダービー出走まで6週間という短い期間でしたが、ダーリン厩舎で調整を重ね、6月1日のダービーステークスに挑みました。ブックメーカーの評価は20対1と低く見積もられていましたが、レースは予想外の展開となりました。出遅れながらも、タッテナムコーナーで追い上げを始めると、驚異的な末脚で先頭を走る2頭を抜き去り、4馬身差をつけて優勝。騎手であるE・エリオットは、その劇的な勝利を「奇跡が起きた」と表現しました。

ボワルセルは、23歳という高齢の母馬から生まれたエプソムダービー優勝馬として、競馬史に名を刻みました。続くフランスのパリ大賞典にも挑戦しましたが、前脚の腱炎により3着に敗れました。この怪我により、翌年のゴールドカップ出場前に引退を余儀なくされました。

種牡馬としての成功と血統的影響

競走馬を引退したボワルセルは、イギリスのラトランド牧場で種牡馬としてのキャリアを始めます。種付料は300ギニーと、3戦2勝という戦績からは想像できないほど高額でした。これは、イギリスで壊滅状態にあったセントサイモン系の復興への期待、そして当時人気の高かったセントサイモンの血を受け継いでいたことが要因として挙げられます。

初年度産駒からセントレジャーステークス優勝馬を輩出するなど、その成功は目覚ましく、イギリスおよびアイルランドの種牡馬ランキングでも上位にランクインしました。彼の産駒は長距離レースで活躍する傾向があり、テヘラン、ミゴリといった名馬を輩出。テヘランはイギリスのリーディングサイアーとなり、ミゴリも凱旋門賞などG1レースを制しました。

これらの活躍馬やその子孫は世界中で活躍し、ボワルセルは「セントサイモン系中興の祖」と呼ばれるようになりました。日本でも、ヒカルメイジ（東京優駿優勝）やヒンドスタン（シンザン父）など、その血統による活躍馬が数多く存在します。ボワルセルはブルードメアサイアーとしても優秀で、イギリスおよびアイルランドのリーディングブルードメアサイアーにも輝いています。

1954年にはアガ・カーン所有のサリーマウント牧場に移籍しましたが、1955年、重度の蹄葉炎により安楽死処分されました。短いながらも華麗な競走馬生活、そして種牡馬としての大きな成功。ボワルセルの血統は、現代競馬においても重要な役割を果たしているのです。

主要な産駒

テヘラン (セントレジャーステークス、イギリス・アイルランドリーディングサイアー)
ミゴリ (凱旋門賞、エクリプスステークス、チャンピオンステークス)
ヒンドスタン (アイリッシュダービー、日本リーディングサイアー7回)
リッジウッド (セントレジャーステークス)
フレンチベージュ (ドンカスターカップ)
Delville Wood (豪州リーディングサイアー5回)
ヒカルメイジ (東京優駿)

主要なブルードメアサイアーとしての産駒

プチトエトワール (イギリスクラシック牝馬二冠)
ダブルボアー (グッドウッドカップ)
ズクロ (コロネーションカップ)
* カンテロ (セントレジャーステークス)

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